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【呪術】もしも、希望の隣に立てたなら。【廻戦】

第37章 都と帳


『………』
紅海はふと足を止めた

黒く鈍い光を放つ一本の釘が、石畳へ深く打ち込まれている

『これ…帳の核…』

メカ丸も視線を向ける
「恐らく…」

紅海は静かに頷く
『壊せば――』

一歩踏み出した、その瞬間だった
空気が裂ける鋭い殺気

「ッ!」
本能が先に動いた
紅海は身体を捻り、その場から飛び退く

次の瞬間
さっきまで立っていた石畳が大きく抉れた

獣の爪のように変形した右腕
その一撃が石を砕いている

紅海は着地し、相手を見据えた
黒いコートを着た男は荒れた呼吸でこちらを見つめる
そして、その顔を見た瞬間――紅海の表情が止まる

『……え』

信じられなかった
『あなた……』

男も紅海を見つめる
ほんの一瞬だけ、目が揺れた
『以前……何度か任務をご一緒しましたよね』

静かな声だった
『どうして……』

男は鼻で笑う
「どうして?」

獣のような腕をゆっくり持ち上げる
「術師が非術師を守って、小銭もらって命削って…その繰り返し」

吐き捨てるように笑った
「馬鹿らしくなっただけですよ」

紅海は何も返せない男は続ける
「こっちは力もくれる、金もくれる」
変異した腕を見下ろす
「……ようやく、人並みに生きられる」

言葉が終わるより早く、地面を蹴る
獣の腕が唸りを上げた

紅海は紙一重でかわし、その勢いのまま距離を取る
石畳へ深い爪痕が刻まれる

『待ってください!』
男は止まらない

『まだ戻れます』
二撃目!横薙ぎ

紅海は呪具で受け流しながら叫ぶ
『何か方法があるはずです!』

『今なら……まだ……』

男の動きが一瞬だけ鈍る
『私も考えます…だから、一人で決めないでください』

その言葉に男の表情が歪んだ
怒りとも苦しみともつかない顔

「……あんたは変わらないな」

その一言だけだった
再び獣の腕が振り下ろされる

紅海は飛び退き、距離を取る
互いに視線を外さない


少し離れた場所で、その一部始終をメカ丸は見つめていた
機械の瞳は二人を映している

「………」
紅海は敵を前にしても、最初に手を差し伸べた

「戻れます」
その言葉が、耳に残る

まるで自分へ向けられたようだった
真人たちとの取引
揺らぐことのない罪悪感

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