第35章 外出と神社
七海を見送り、宿舎の廊下に静けさが戻る
ドアが閉まる音が小さく響いた
『今日は本当にありがたかったなぁ』
紅海は満足そうに笑って、空になった皿を重ねる
『七海、ほんと、いい人だよね』
「そうだね」
五条は短く返した
食器を流しへ運ぶ紅海の横へ立ち、袖を少しだけまくる
「洗うよ」
『え、大丈夫だよ』
ちょっと、肩で五条を押す
「何で?こないだも後片付けしてもらったでしょ?」
『まぁ、そうだけど…』
「僕って律儀だからねぇ?」
『そう…なのかな?』
五条の軽口に、反論しようと思ったが…そう言えば意外に律儀なのかもしれないと、紅海は曖昧に答える
そんな紅海を、目隠し越しに見ながら
軽く笑いながらスポンジを手に取る
紅海は苦笑して、横で皿を拭き始めた
水の流れる音だけが、二人の間を満たす
不思議と気まずさはない
昔から、こんな空気だった気がする
しばらくして
五条がぽつりと
「お見合い…」
『……うん?』
「本当に行くの?」
紅海の皿を拭く手が止まる
『うーん』
少しだけ困ったように笑う
『本当は行きたくはないかなぁ…』
「ふーん」
『だって、人見知りだもん!初対面の人って緊張する!』
拗ねたような表情をして、ぶっちゃける紅海
五条は吹き出した
「今さら?」
『今さらだよ』
紅海は真顔で頷く
『知らない人と二人きりって苦手なんだよ』
「任務なら平気なのに?」
『任務は仕事だから…でも、お見合いって違うじゃん』
皿を棚へ戻しながら、小さく息を吐く
『だって、結婚前提で会うんでしょ?
そんなつもりで相手と向き合うなんて……私にはハードル高すぎるよ』
その言葉を聞いて
五条はスポンジを洗い流しながら思い出す
高専へ編入してきたばかりの頃
まだ今ほど笑わなかった紅海
話しかけても少し距離を取って
目を合わせては逸らして
『あ、あの……五条くん』
それが精一杯だった
五条は思わず口元を緩める
「確かに、高専来たばっかの頃」
五条は紅海の真似をするように少し声を細くした
「"五条くん……あの、あの……"って…」
『ちょっ……!』
「全然目、見てくれないし」
『もう忘れてよ!』