第35章 外出と神社
だから七海は手の中の奇妙なお守りを見ながら静かに言った
「それに」
『うん?』
「このお守りが二十年以上残っているのも」
『うん』
「案外、忘れられていない証拠かもしれませんよ」
紅海は一瞬ぽかんとして
それから小さく吹き出した
『お守りは売れ残りなんだけどね?』
「そうでしょうか」
七海は真顔だった
その真面目な顔が少しだけ可笑しくて
紅海は久しぶりに肩の力を抜いて笑った
夕方の空は茜色に染まり始めていた
神社を出たあと、紅海と七海は駅前のスーパーへ寄る
特売の野菜を見て立ち止まり
夕飯の献立を考え
たまにどうでもいい雑談をする
特別なことは何もない
だが紅海にとっては久しぶりだった
監視だの報告書だのを忘れて、ただ買い物をする時間
それだけで少し気持ちが軽くなっていた
買い物袋を片手に高専へ向かう
校門が見えてきた頃だった
前方から見慣れた目隠しの長身が歩いてくる
人混みの中でも異様に目立つ
『あっ、悟だ』
紅海が声を上げる
「あれ、もう帰ってきたの?おかえり」
五条が軽く手を上げた
『ただいま』
その返事に、紅海は少しだけ笑う
五条の視線がスーパーの袋へ向く
ネギが飛び出している
「買い物もバッチリだね~!」
『うん、今日はいっぱい歩いたし…』
「七海に、無駄な買い物するなとか言われなかった?」
「流鏑馬さんは、あなたじゃないので、堅実に買い物をしていましたよ」
五条の視線が七海へ移る
「えー?僕も堅実だけどなぁ…七海、今日はありがとね」
軽い口調でいつもの調子だ
「こっからは紅海引き受けるよ」
監視対象を引き受ける…そういう意味だ
紅海は2人の間で、キョロキョロする
あなたに、礼を言われる筋合いはない…
七海は小さく息を吐いた
「いいえ最後まで送り届けますよ」
五条の口元がわずかに緩む
「七海、真面目だなぁ」
「当然です。」
「つまんない男って言われな~い?」
「言われたことはないですね」
いつものやり取りだった