第37章 都と帳
張り詰めていた呪力が、一気にほどけていく
覆っていた外側の帳は、音もなく消えた
「帳が…!」
術師の反応
術師たちが一斉に空を見上げる
避難を強いられた一般人は、何が起きたのかも分からないまま
術師の反応を見て何故だかホッとする
「今から、安全な場所まで誘導します!」
「押さないで!」
術師と補助監督の声が飛ぶ
その一方で
恐怖を糧としていた呪霊たちも、外へ溢れ出そうと動き始めた
「伊地知さん!」
若い補助監督が叫ぶ
伊地知は迷わず通信機を握る
「各補助監督へ…一般人への認識阻害のため、帳を展開してください」
《《担当区域ごとに順次展開します!》》
《《南側、展開します!》》
《《東側も準備完了!》》
京都市内の各所で、補助監督たちが印を結ぶ
薄い帳が幾重にも広がり、一般人の視線から呪霊の存在を遠ざけていく
伊地知は周囲を見渡し、小さく息を吐いた
「……これで混乱は最小限に抑えられるはずです」
清水寺の境内
紅海の呪具が、最後の釘を捉えた
乾いた音
黒い釘が砕け散る
同時に、静かだった中心部を覆っていた帳も、ゆっくりと霧散していった。
領域の境界が揺らぐ
慈掌緩枷は、その役目を終える
『……』
紅海は小さく息を吐いた
保田を包んでいた守護が静かに消えていく
それでも、暴走しかけていた身体は、すぐには崩れなかった
変異は止まったまま
辛うじて均衡を保っている
『保田さん』
紅海は駆け寄り、その身体を支える
脈も呼吸もある
だが、呪力の流れはひどく乱れていた
硝子…
その名が脳裏をよぎる
だが、彼女は東京だ…
紅海はすぐ通信機へ手を伸ばした
『遊佐くん!』
焦りを抑えきれない声だった
『内側の帳を降ろした術師…保田さんが呪力暴走を起こしてる!
反転術式が使える医療班を、すぐお願いします!』
早い口調で簡潔に伝えた
『まだ……まだ助かるかもしれないから!』
通信の向こうで、一瞬だけ沈黙が落ちる
それから遊佐の落ち着いた声が返ってきた
《《分かりました…医療班を向かわせます》》
《《紅海ちゃん、そのまま保田さんの状態を維持してください》》
《《必ず行かせます》》
紅海は小さく頷いた。
『……お願いします。』
その手は、なおも保田の肩を支え続けていた