第35章 外出と神社
境内の外では
社務所で七海が静かに座っていた
開け放たれた窓から風が入り、木々が揺れている
七海は名簿に目を落としていた
神社の参拝客はそれほど多くない
時折やってくる人に挨拶を返しながら、穏やかな時間が流れていた
そこへ、ぱたぱたと足音が近付いてくる
顔を上げると紅海だった
先程まで道場で休んでいたはずだが、どこか疲れた顔をしている
『七海、ありがとう……』
「何かありましたか?…表情が…」
紅海の顔を見る
『うぅ……』
紅海はその場にしゃがみ込むように椅子へ腰掛けた
『勝手に、お見合いとか勧めてくるんだよ?もー!って感じ』
七海の指が一瞬だけ止まった
「……そうですか」
短い返事だった
だが、その短い言葉の裏で、七海は少しだけ考える
お見合い…年齢を考えれば不思議ではない
神社の跡取りでもあるのかもしれないし
祖母がそういう話を持ってくること自体は自然だ
ただ、胸の奥に小さな違和感が残った
自分でも理由は分かっている
だから深く考えないことにした
七海は話題を変えるように視線を横へ向ける
社務所の棚
そこに並ぶお守り
昔ながらの交通安全
厄除け、学業成就、健康祈願
その中に
一つだけ異彩を放つものがあった
七海が手に取る
「このお守りだけ前衛的ですね」
『あ…』
紅海が顔を上げた
七海の手の中には、何とも形容し難い生き物が描かれた
ワッペンに紐が付いたお守り
虎にも熊にも犬にもサメにも見える
結論として何なのか全く分からない
しかし妙な愛嬌だけはある
『それね…私が小さい頃に描いた狛犬の絵』
「……狛犬ですか」
『うん』
七海はもう一度見た
狛犬らしさは皆無…
紅海は懐かしそうに笑う
『お父さんがさ…これ!売れるよ!オカーサン!コレ、カワイイー!って』
少しだけイタリア訛りが混じる父親の発音を真似る
七海は思わず口元を緩めた
『それで、お祖母ちゃんがお守りにしちゃって』
「なるほど」
『一応、小さい頃の私とお祖母ちゃんの呪力が入ってる』
「一応?」
『多分』
「多分?」
『だって二十年以上前だもん』
七海はお守りを見る
二十年以上…それだけ長い時間ここに並んでいるということだ