ぐうたらの私が異世界で帽子屋(マッドハッター)になる
第20章 第二十話
「ねーねー。ママってあのおじちゃんの知り合いなの?」
湯船にゆっくり浸かっていると、シオがお湯をかぶりながら聞いてきた。
「あー。どうだろう。他人の空似じゃない?」
とごまかしてしまった。どう答えたらいいのかわからなくて。
「ふーん。そうだよねー」
シオもそこまで深く聞いてくることはなかった。
そして夜。
皆早めに寝てしまった。
しかし、私は眠れずにいた。
(無事にファフニールに戻れるのかな…)
そんなことを考えつつ、私は水を飲もうと一階のロビーに降りた。
すると、宿屋の扉がガチャリと開いた。
そこに立っていたのは外套を着たセカだった。
「!!!」
私は驚いてコップを落としそうになり、お手玉した。
「やっぱり、シアン…」
「せ、セカ…このことは誰にも…」
「言わない。言うはずがない」
そう言ってセカは急いで私のほうに歩み寄り、ぎゅっと抱きしめてきた。
「すまない。金の眼の男に攫われたという噂を聞いた時、俺はてっきり国に帰れたのかと思っていた」
「私も帰れると思ったんですけどね…無理だったんですよね…」
私はセカの体を押し返すも、力強すぎて押し返せない。
「あ、すまない。つい…」
セカは力を緩めてくれたものの、まだがっちり肩を掴まれる。
「あの子…シオは、ユラ殿との子どもか?」
「ええ…まあ…」
「ユラくんにそっくりだな」
確かにシオはユラくんにそっくりだ。性格は似ても似つかないけど。
「もう、私は元の…国へは戻れません。シオも生まれたし。ファフニールでおとなしく生きていきたいのです」
「名前も変えて。そこでずっと生きていくのか…」
「ええ。幸せですよ、結構」
そう笑顔で答えると、セカは少し寂しそうな表情をした。
「そうか…お前のこと、ずっと心残りだった。俺のせいであんなことになったのに、別れ方もあんなだったから…」
「もう、昔のことです」
と、私はきっぱり言った。
すると、
「俺はずっと、シアンのことが…」
セカは何かを言いかけて、それ以上は何も言わなかった。
「ファフニールへの道は、俺がなんとかしよう。馬車を手配する」
私の肩から手を離し、そう言った。
「助かります。国境が不安でした」
敵国同士ではないけど、私は一応探されている身だからね。