ぐうたらの私が異世界で帽子屋(マッドハッター)になる
第19章 第十九話
私が必死に引きはがすと、チェシャーは悪びれることもなくそう言った。
「私!帰ります!」
怪しげなお茶を飲み干し、私はそのまま部屋を出た。
「こんなにはやく?僕はもっとお茶会したいけど」
そう言って、彼は私の背後に現れ、右手を掴まれる。
「し、神出鬼没!」
「僕の能力だからね。君はまだ、使ったことがない能力がいくつもあるね」
私はここが使い時だ!と思い、左手でシルクハットを振り上げた。
すると、部屋中に霧が立ち込めた。
「わあ、僕実際には初めて見たよ。帽子屋のこの能力」
近くでチェシャーの声が聞こえる中、私は気配を消す帽子をかぶりつつ廊下を逃げた。
…幻を見せる霧の力だ。
あとは、シオたちを見つけないと。
私は忍び足で廊下を歩き、下の階へと行った。
「ひー…方向音痴すぎて迷う!」
たくさん扉と階段と。
私はいろんな扉を開けながら、シオたちを探す。
ここが何階なのかもわからない。
試しに窓を開けて、下を見てみたら、目が回るほどの高さだった。
「こんな上のほうにはきっと来てないはず…」
そう言って、窓を閉めようと顔を上げた瞬間、目と鼻の先にチェシャーが現れた。
「やあ。また会ったね」
「まぼろしまぼろし~」
そう言いながら、帽子を振って再び霧を生み出す。
「窓を開けておくと、少し効果が薄まるね。密室で使うことをお勧めするよ」
チェシャーはそう言うと、再び私の腰に腕を回した。
「ねえ、帰りたいんでしょ。僕が皆のところに返してあげるよ」
「いいの!?」
「もちろんだよ。僕は残念だけど、君と僕との仲だからね」
その言葉とともに、チェシャーと私は一緒に黒い煙になった。
「ここはさっきも来たぞ」
ダウニーさんの声がする。
「早くママを助けないと、アイツに何されるかわかんないよぉ」
シオは涙声で言ったその瞬間、私とチェシャーは黒い煙となって、目の前に現れた。
「「「「ヨアンさん!!」」」」「ママ!!!」
全員驚きの声を上げ、シオはすごい勢いで私に抱き着いてきた。
「ただいま戻りました」
泣いているシオをなだめつつ、皆さんに挨拶した。
「おやおや。これでも早くお返ししたつもりだったんだけど」
チェシャーはそう言って、出窓の枠に足をかけた。
「この城から出たいんだけど」