ぐうたらの私が異世界で帽子屋(マッドハッター)になる
第19章 第十九話
こうして私はこの男…チェシャーに連れ去られ、お城の中に招待されていた。
「あの、私に用ってなんですか?」
「まあ、いいじゃない。とにかく席について。お茶にしよう」
チェシャーはそう言って、手をパンパン鳴らすと、メイドさんたちがお茶やお菓子を持ってきてくれた。
「で、でも、皆さん待っていると思うし…」
半ば無理やり座らされながら、私は言うと、
「彼らは、勝手に僕のお城に入ってきたみたいだよ。危険はないけど、迷宮だからねぇ…ここまで来るのは数週間、数か月かかるんじゃない?」
チェシャーはそう言ってお茶を一口飲んだ。
深い紫の瞳に明るい紫の髪。
私より若く見えるけど、いくつなんだろう。
「…チェシャーさんは…」
「帽子屋、僕のことはチェシャーと呼んで。君と僕の仲じゃないか」
「チェシャー、私はマッドじゃないけど、それでもいいんですか?」
「たしかに、マッドはマッド。君は君だが、僕はマッドから能力を譲られた君にとても興味を持っているよ。君はマッドからこの能力の引き継ぎ方を聞いただろう?」
…そうだ。この能力は遺伝しない。
この能力を譲りたいと思った人物に譲って、初めて引き継がれるのだ。
「…あとは死んだときに、帽子を持っていた人が引き継ぐと聞きました」
私の言葉に、チェシャーは頷きながら聞く。
「君は選ばれたのさ、マッドに」
「私は偶然だったと、思っていますが」
「偶然は必然、表裏一体さ」
そう言って、チェシャーはカップの紅茶を見つめながら言う。
「とにかく。僕は君の人生の虜なのさ」
「私の人生?」
「そうさ。『異世界から来た帽子屋』。それだけで僕は胸が躍るよ!」
そんなにいいものではありませんが。
そう言いかけた私の近くに、チェシャーは再び来た。
煙のように消え、煙の中から現れる。
何回見ても慣れない。
「君は、本当に興味深いよ…」
そう言って、私の唇を指でなぞる。
「ちょ…」
あまりに距離が近すぎて、私は距離を取ろうと立ち上がったところを、チェシャーにからめとられる。
腰に腕を回されて、身動きが取れない。
「…いつまでも。ここにいていいのだよ」
そう言ったチェシャーに、ゆっくりと深く口づけされる。
「んん…」
なぜかその瞬間、私はふとユラくんを思い出した。
「なにするの…っ!」
「親愛の証ですよ」