第16章 Drastic medicine(緑谷出久 ホークス)
「繭莉」
俺が名前を呼ぶと、彼女の肩がビクっと震えた。
「なんで、謝んの?」
「……だって、私……っ……」
本当の事を知りたい。
本当の事を言いたい。
俺は、抱きしめていた繭莉の両肩を乱暴に掴むとソファの背もたれにグッと押し付けた。
突然そうされた事にビックリしたのか、繭莉は「きゃっ」と小さく悲鳴を上げた。
「ホークスさん……待っ、んっ!」
俺を制止しようとした彼女の唇を無理矢理奪うと、いつものようにシャツをギュッと掴まれる。
きっと、こうされるのもこれで最後だろう。
「……っは……」
唇を離すと、涙で目を濡らした繭莉と視線がかち合う。
言うなら、今しかないと思った。
「……好きなんだ、繭莉」
喉の奥から絞り出した声は少し、震えていたかもしれない。
「……わた、し……」
繭莉は、涙を零しながら首をふるふると横に振った。
ああ。
これが、答えか。
「……ごめん。分かってた」
震える肩から手を離すと、彼女も俺のシャツから手を離して、俯いた。
「何も、言わなくていいから」
繭莉は、何も言わなかった。
ただ、零れ続ける涙が彼女の制服のスカートにぽたぽたと落ちた。
どうして、泣くんだろう。
本当は、いい歳して思う事じゃないけど俺だって少し位泣きたい。
だけど。
やっと、言えた。
「好き」の、ただその一言が。
いいんだ、好きって言えただけ。
あとは、繭莉の想い出に少しでも俺が残ったなら、それでいい。
「……泣き止んだら、帰って」
今、顔を見たら抱きしめたくなる。
だから、俺は振り返りもしないで部屋のドアを静かに開けた。
「じゃあ、元気で」
それだけ言って、部屋を出ると後ろ手でドアをパタンと閉めた。
「……さよなら」
俺は、自分にギリギリ聞こえる位弱々しい声で呟いた。
緑谷くん以外、誰にも明かさなかったこの気持ちはずっと仕舞っておけばいい。
それが、この恋の正しい終わらせ方だと思った。
あとは時間が何とかしてくれる。
そう、思っていた。