第16章 Drastic medicine(緑谷出久 ホークス)
pm5:45。
公安委員会本部。
俺が仕事に勤しんでいると、ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
パソコンの画面を見つめたままそう言うと、ドアが開いたのでそちらに視線を移すとそこには繭莉の姿があった。
「……ホークスさん」
「繭莉……!?」
俺は、思わず椅子から立ち上がった。
彼女はいつも、俺の所に来る時には連絡をくれた。
今日は、そんな連絡は全くなかったので来るとは思っていなかった。
「急に……」
どうしたの、と言いかけて浮かない様子の彼女の顔を見ると、頬にうっすらと涙の痕があるのが見えた。
こりゃ、なんかあったんだな。
多分……緑谷くんあたりと。
俺は、慰めの言葉をかける代わりに繭莉を抱きしめた。
すると、いつかの匂いが微かに鼻を掠めたので自分の勘は正しかったのだと確信した。
俺は、慰め係かなんかなの?
……まぁ別に、こうして俺の所に来てくれんならいいけど。
改めて都合のいい男だと思い知らされながら、繭莉の背中をさすっていると、その背中が僅かに震えだしたので泣いているんだと分かった。
「泣く程、何があったの?」
「……私……」
「うん」
「私、この町を出ます……学校も、士傑に転校するの……」
「え……?」
寝耳に水とは、きっとこういう事だろう。
今まで、そんな素振りも発言もしなかったのに。
そうは思ったけど、俺も一応大人なので焦る自分の気持ちに蓋をして励ましの言葉をかける事にした。
「そっか、転校してもガンバって。……じゃあ、オールマイトが好きな先生と遠距離になっちゃうね」
「……緑谷先生とは、私、もう……」
繭莉が涙声でそう言ったので、やっぱり緑谷くんじゃないかと思うのと同時に俺にそれを言っていいのかとも思った。
「緑谷先生?」
一応知らないフリでもしておいた方がいいかと思ってそう聞くと、また意外な答えが返ってきた。
「……もう、緑谷先生からこないだホークスさんと会って話したって、聞きました……」
なんだ。
もう、全部知ってるのか……?
「ごめんなさい、ごめんなさい、私……ごめんなさい、ホークスさん……!」
泣きながら謝り続ける繭莉。
きっと、俺はまだ好きだとも言ってないのに好きじゃないとフラれるんだろう。
それは、分かってた。
