【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第8章 Unholy Devotion
「いいじゃん。奢れよ仁美。」
軽い声が自然に出る。
出せてしまう。
研磨が横目で黒尾を見た。
一瞬だけ、静かに探るような目。
黒尾は気付かないふりをした。
心は二つに分裂しているのに、まだどちらも壊れていないと思っていた。
日常を捨てるつもりなんてなかった。
家族でも、親友でもない。
仲間以上恋人未満の関係でもない。
それでも——
この2人と一緒にいる未来を疑ったことなんて一度もなかった。
このときまでは。
スマホがまた震える。
黒尾は見ないふりをして、笑ったまま歩き続けた。
見ないふりをしたのは、その方が楽だったから。
それを見逃さない目は確かにそばにあった。
仁美が何かを楽しそうに話して、黒尾が適当に茶化して、研磨は隣を歩くだけ。
傍から見ればいつもと同じ、何も変わらない三人。
……のはずだった。
信号待ちのとき。
黒尾のポケットが小さく震えた。
黒尾の指先が、ほんの一瞬だけ止まる。