第23章 夜叉椿
開始の合図はなかった。宿儺が僅かに顎を引く。それだけで、ロロは踏み込んだ。速い。一直線には行かない。1歩目で右へ。2歩目で左へ。宿儺の視線を揺さぶる。
「…ほう」
宿儺が笑った。ロロの拳が迫る。宿儺は受けずに身体をずらす。その瞬間、ロロは拳を引いた。誘いだった。空振りしたように見せて、宿儺が避けた先へ回り込む。肘が迫る。宿儺はそれをかわす。互いに一歩下がる。
「読まれちゃったか」
ロロは笑う。宿儺は構え直した。
「なら、これはどうだ」
一瞬。宿儺の姿勢が低くなる。ロロは即座に後ろへ下がった。だが、宿儺は追ってこない。
「…フェイント?」
「正解だ」
「性格悪い!」
「戦いに性格など持ち込むな」
ロロが笑った瞬間、宿儺が踏み込む。今度は本物だ。ロロは拳を受け流す。ロロは鬼のお面を一度取ると、また付け直した。
「領域展開『鬼神顕現(きしんけんげん)』」
ロロは領域を展開させた。水墨画で描かれた巨大な椿の木が現れた。ポト、ポトリ。椿が一つまた一つと落ちる。夜叉椿に変わる。
「私の得意技『骸牙(がいが)』をお見舞いしてあげる」
宿儺の懐に入ると、ロロは両手を前に出して、宿儺のお腹に手を添える。
「宿儺、耐えてね。『骸牙』」
ワザと攻撃を受けた宿儺は、体が大きく震え出し、口から鮮血が噴き出した。すぐさま、宿儺は反転術式で治す。なんだこれは。宿儺はロロを見つめる。
「骸牙は、衝撃を外へ逃さず、魂だけを破壊する攻撃なの。受けた相手は、魂が壊れて死んでしまうけど。さすが、宿儺ね!」
キラキラした目で宿儺を見る。
「久しぶりに試したい術が沢山あるから、付き合ってよね、宿儺」
「ケヒヒッ、興が乗った。俺も本気でいくぞ。『■』。『開』」
宿儺は炎で弓矢のポーズを作る。確か宿儺の術式は、斬撃や切断だったはず。まぁ、今はそんなことどうでもいい。ロロの目は狂喜に満ちていて、宿儺に挑んでいった。
5分後。椿は全部落ちてしまった。すると、領域が強制的に閉じてしまい、ロロはその場で眠ってしまう。どうやら、鬼神顕現は5分間だけ夜叉椿になれるみたいだ。椿は時計を表し、領域が終えるとその反動で眠気が起こるらしい。