第21章 我儘
領域展開。呪力で構築した生得領域内で必殺の術式を、必中必殺へと昇華する。七海の到達できなかった呪術の極致。恐らく真人の魂に干渉する術式は、原型の掌で触れることが発動条件。しかしそれが、必中の領域内となればロロと七海は今、文字通り掌の上。
呪術師はクソだ。他人の為に命を投げ出す覚悟を、時に仲間に強要しなければならない。だから辞めた。というより逃げた。七海は昔の事を思い出していた。
七海は『やり甲斐』とか『生き甲斐』なんてものとは無縁の人間だった。3、40までに適当に稼いで、あとは物価の安い国でフラフラと人生を謳歌する。高専を出て4年。寝ても醒めても金のことだけを考えていた。呪いも他人も金さえあれば、無縁でいられる。金、金、金、金、金、金、金…。
ある時、行きつけのパン屋の店員の肩にいる蝿頭を祓った。そしたら、『ありがとう』と感謝された。『生き甲斐』などというものは、無縁の人間だと思っていた。七海は五条に電話をかける。こうして、高専に出戻った七海。
「…兄者」
ロロは真っ二つになった鬼のお面を見つめる。絶体絶命かもしれない。もう少し、この世界にいたかった。そう考えていたその時。
バリンッ!
真上から、虎杖が現れた。結界術は内からの耐性を上げる程、外からの力に弱くなる。『領域』は『閉じ込める』ことに特化した結界。逆に侵入することは容易い。何故なら、侵入者にメリットがない。『無量空処』や『自閉円頓裹』のように、相手を領域に引き入れた時点で勝ちが確定するとなれば尚更。だが、虎杖の裡には触れてはいけない『魂』が在る。
「言ったはずだぞ。二度はないと」
宿儺の生得領域にロロ達はいた。ロロは、頂に鎮座している宿儺を見つめる。虎杖の姿をしているのに、威厳と重圧を肌で感じる。胸のドキドキが止まらない。
宿儺の斬撃が真人の左肩を斬る。天上天下唯我独尊。己の快、不快のみが生きる指針。宿儺にとって、七海が死のうと真人が死のうとどうでもよかった。宿儺はチラッとロロを眺める。宿儺と目が合った。ロロは顔を真っ赤にして、真っ二つになった鬼のお面で顔を隠す。宿儺の唯一の好機は2人。それ以外は、心底どうでもいいのだ。