第16章 幼魚と逆罰
「こんなもんか、1級術師。よく逃げ回ったけど、色々と限界でしょ」
真人は2階のフェンスに腰を下ろして、七海を眺める。脚を元の人の形に戻す。柱にもたれかかっていた七海は、ネクタイを緩めだした。
「フーッ。残念ですが、ここからは、時間外労働です」
そう言うと、七海の呪力が増えていく。七海はネクタイを右手に巻いていると、真人が2階から飛び降りてきた。
「私の術式は対象を線分した時、7∶3の比率の点を強制的に弱点とするものです。線分するのは全長やウィングスパンだけではありません。頭部、胴、上腕、前腕などの部分までは対象として指定できます」
「本気だね」
「そして、この術式は生物以外にも有効です」
真人の祓い方。現時点で考え得るのは、1つ、真人の呪力が尽きるまでダメージを与え続ける。これはあまり現実的ではない。2つ、全身を一撃で粉々にする。十劃呪法『瓦落瓦落』。七海は壁を殴った。破壊した対象に呪力を篭める拡張術式だ。相討ち覚悟の広域攻撃。
「避けた方がいいかな」
七海が7∶3を真人の右足に決める。真人は尻もちをつく。
「一旦、退きます。足、早く治した方がいいですよ。お互い生きていたらまた会いましょう」
瓦礫が真人の上に降ってくる。七海は急いでアジトから出た。数分後、瓦礫の隙間からニョロニョロと真人が蛇みたいに出てきた。
「あっはっは。見かけによらず無茶するなぁ、あの術師」
「随分、派手にやったな」
「夏油!!面白い奴だった。色々勉強になったよ。バラバラにすり潰されても、魂の形さえ保てば死にはしない。呪力の消費も自己補完の範疇だ。それと、自分の魂の形はどれだけイジっても、ノーリスクのようだね。次は思い切って色々やってみるよ」
「相手の呪術師は?」
「どうかな。一度退くと言っていたけど、瓦礫の下かも」
真人はそう言うと、ニヤリと笑った。
蝿頭を捕まえた伊地知は、虎杖に電話をかける。
「えぇ、吉野順平の自宅に!?それはちょっと」
『大丈夫、大丈夫。じゃあ、これから映画だから』
「映画て!!私もすぐ向かいます」
これは監督する立場として大失態。チャランポランな五条ならまだしも、大人オブ大人の七海に叱られたら、伊地知は多分泣く。
「急げ、私!!この歳で人前で泣きたくないでしょ!!」
車を発進させようとした時、七海から着信があった。
