第16章 幼魚と逆罰
「肉体の形は、魂の形に引っぱられる」
真人がそう言うと、皮一枚で繋がっていた手首が、ボコボコと治っていく。
「治癒じゃない。己の魂の形を強く保っているんだ。もう分かったでしょ。俺の術式は魂に触れ、その形を変える。『無為転変』」
隠し持っていた赤黒い物体の形を変えて、人型にする。
「人間を小さくしてストックしてるんだ。結構、難しいんだよ。一般人は形変えちゃうとそのうち死んじゃうけど、呪術師はどうかな?」
「17時半…。今日は10時から働いているので、何がなんでも18時にはあがります」
腕時計をチラッと見た七海は、そう宣言した。
「よく動くね」
真人は赤黒い物体を2体取り出すと、放り投げた。形を変えて七海の方に伸びていく。それを避けて、七海がそれの上に乗る。形を変えるのに元の人間の質量は関係ないみたいだ。どちらにしろ、七海の術式とは相性が悪い。
「…けて。タす…けでぇ…」
ちょうど顔が足元にあり、泣いていた。一度改造された人間はまず助からない。襲われたら迷わず殺す。それが被害者のためでもあった。
「あー、ゴメンゴメン。いっぱい練習したからさ、大きさ変えてもすぐ死ぬことはないけど、脳?意識?の方はまだ精度低くてさ。そうやって魂の汗が滲み出ることがあるんだ。気にせず続けよう」
七海は呪霊の流していた涙を親指で拭う。
「気にしてなんかいません。仕事に私情は持ち込まない主義なので」
「ブハッ、嘘が下手!!魂が揺らいでいるよ。…えーっと、アンタ何級?」
「1級」
「強いわけだ。実験体としてベスト。俺は運がいいね。感謝するよ」
そう言うと、真人は脚を蹄のある動物に変えた。急接近して、左手で七海の右脇腹を触る。ズグン、と鈍い痛みが全身に広がる。すぐに真人に攻撃するが、空振りに終わる。
「急にスピードが上がって吃驚した?自分の魂の形だって変えられるんだよ。呪術師は呪力で体を守ることはできても、魂を守ることはしてきてない。第1に『己の魂を知覚する』。これができなきゃそれは叶わない。でも、多少は無意識に魂を呪力で覆っているようだね。そうでなきゃ、アンタは今頃、俺の手駒さ。まぁ、あと2、3回触れて、人間やめさせてあげる」
七海は右脇腹を庇いながら、真人の攻撃を回避する。