第16章 幼魚と逆罰
「鬼住さんと虎杖君は呪術師なんだよね?」
「おう」
「人を…殺したことある?」
前世では沢山殺したが、この世界ではまだ殺したことがない。
「…ないよ」
「ない…」
「でもいつか、悪い呪術師と戦ったりするよね。その時はどうするの?」
「…それでも、殺したくはないな」
「なんで?悪い奴だよ?」
「なんつーか一度人を殺したら、『殺す』って選択肢が俺の生活に入り込むと思うんだ。命の価値が曖昧になって、大切な人の価値まで分からなくなるのが、俺は怖い」
ロロは静かに鬼のお面を触る。虎杖の言いたいことは分かる。けれど、それじゃ、いざという時に大切な人を守ることはできない。伊地知が迎えに来たので、ロロと虎杖は帰ることにした。部屋に戻った順平は、ベッドに横たわる。右手を伸ばして考える。力を与えてもらった。でも自分が人を殺すことで、母親の魂が穢れてしまうなら、人は殺せない。
「うーん、ロロちゃんと悠仁君、帰っちゃったかな。ん、何コレ?」
目を覚ました凪が、テーブルの上に置かれている物を持ち上げる。
「…指?」
何故か宿儺の指がここにあった。凪の後ろには呪霊が佇んでいた。
数時間前。七海は敵のアジトに乗り込んでいた。
「出てくるならさっさとして下さい。異形、手遅れとはいえ、人を殺めるのは気分が悪い」
「いやぁ、良かった、良かった。五条悟が来ても困るけど、あんまり弱いと実験にならないからさ」
真人が現れた。
「残業は嫌いなので、手早く済ませましょう」
戦いは七海の方が有利だった。7∶3が決まり、ガードしていた真人の手首を切る。
「俺ちゃんと受けたよね。呪力で。そういう術式?」
「『そういう』とは?他人任せな抽象的な質問は嫌いです」
「良かった。お喋りが嫌いなわけじゃないんだ」
「相手によります」
七海は眉をひそめる。五条の報告にあった未登録の特級呪霊2体とこの呪霊。無関係とする方が不自然か、と思考する。
「ねぇ、アンタはさ、魂と肉体どっちが先だと思う?」
七海は疑問符を浮かべる。
「ほらあるでしょ。卵が先か鶏が先かみたいな話。肉体に魂が宿るのかな?それとも魂に体が肉付けされているのかな?」
「前者」
「不正解。答えは後者。いつだって魂は肉体の先にある」
真人は切られた手首を前に出した。