第16章 幼魚と逆罰
吉野順平は、嫌いな人間が死ぬボタンがあっても多分押せない。でも自分のことを嫌いな人間が死ぬボタンなら迷わず押す人間だった。映画館で特級呪霊の真人と出会った順平は、真人のアジトにきていた。
「『特級仮想怨霊』そう呼ばれる呪霊がいる。呪霊は人間から漏出した呪力の集合体。実在しなくても共通認識のある畏怖のイメージは、強力な呪いとなって顕現しやすい」
ハンモックに寝転んで、本を読む真人が言う。
「共通認識のある畏怖のイメージ…。有名な妖怪や怪談ってことですか?」
「そっ。トイレの花子さんとか九尾の妖狐とか色々。呪術師はそれらを特級仮想怨霊として、登録し警戒してる。正体不明の強力な呪いもとりあえず、仮想怨霊としてカテゴライズする辺り、それしか見えてないって感じだよね。でも、人々が常に恐れているのは、そんなお伽噺じゃないだろう?」
「…天災とか?」
真人は上半身を起こすと笑った。
「君との会話はストレスがなくて助かるよ」
順平が照れる。
「大地を森を海を人々は恐れ続けてきた。それらに、向けられた呪力は大き過ぎるが故に、形を得る前に知恵をつけ、今まで息を潜めていたんだ。皆、誇らしい俺の仲間さ」
「真人さんは、なんの呪いなんですか?」
「人間。俺は人が人を憎み恐れた腹から産まれた呪いだよ」
順平の方を向いて、真人はニコリと笑った。すると、真人は順平に10cm程の赤黒い物を渡した。ハンモックから降りると、真人は歩き出した。その後を順平が追いかける。
「『好きの反対は無関心』なんて初めに言った人は、ちゃんと地獄に落ちたでしょうか。悪意を持って人と関わることが、関わらないより正しいなんてあり得ない」
「『好きの反対は嫌い』です。日本人って好きですよね。単純な答えを複雑にして悦に浸るの」
「皆、言葉遊びが好きなのさ。なぜなら人間は言い訳しないと生きていけないからね」
移動した先には巨大な物体があった。
「これは?」
「1人の人間をどこまで大きくできるかの実験。逆にそっちはどこまで小さくできるか試してみた」
なんと10cm程の赤黒い物体は人間だったのだ。あまり驚いていないので順平に聞いてみると、もしそれが母親だったら取り乱して、真人を憎んでいたと話す。