第102章 刀鍛冶の里での罠〜時透無一郎 冨岡義勇【R強】
「勝手にしろよ!僕はこの部屋で美月と寝るから!」
わざと大声で叫んだ言葉は、自分自身の未熟さと苛立ちの裏返しだった。
傷つけるつもりなんてなかったのに、言葉が止まらなかった。
襖の向こうが静まり返る。
無一郎は、突き動かされるような衝動を必死に抑えて立ち尽くしていた。
今すぐ追いかけて、その小さな身体を抱きしめたい。
けれど、怒りそして何より彼女を傷つけてしまったという強い罪悪感が、彼の足を止まらせた。
「無一郎様…?」
隣で戸惑う美月の声など、今の無一郎の耳には届かない。
心にあるのは、ただ一人、泣きそうな瞳で自分を見つめていたゆきの姿だけだった。
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しばらくして、隣の部屋の気配が動いた。
ゆきが温泉に向かうために廊下へ出たのだ。
その気配を察した無一郎は、わざとらしく美月の話に相槌を打つ。
隣の部屋からは、それに合わせた美月の楽しげな笑い声が響いた。
壁一枚を隔てた向こう側で、ゆきがどんな表情をしているかも知らずに。
けれど、ゆきはその笑い声を無理に振り切るように、うつむいたまま足早に温泉へと向かっていく。
トコトコと遠ざかる足音が、無一郎の胸を締め付ける。
「…もういいよ、美月。自分の部屋に帰って」
「えっ…でも…ゆきさんが使うんじゃ…」
「帰って。一人にしてほしいんだ」
冷たい無一郎の瞳に、美月はそれ以上何も言えず、逃げるように部屋を出て行った。
一人残された部屋の中、無一郎は頭を抱えて畳に崩れ落ちる。
美月の簪を隠した事…違うなら違うって何故否定しないんだ。まるで僕を試すような返しばかりして…
僕に、ずっと突っかかってくる…。
おまけに、明日帰るだって?
無一郎は、何か思い立ったように部屋を飛び出し温泉へと向かった。