第102章 刀鍛冶の里での罠〜時透無一郎 冨岡義勇【R強】
今回、宿は二部屋取っていた。美月が一部屋、そして自分とゆきが同じ部屋。
それなのに、美月は当然のように自分たちの部屋に入り浸り、読書をする無一郎のすぐ隣で、触れ合いそうなほど距離を詰めて座っている。
「無一郎様といると、私、本当に安心します」
そう言って向けられる無一郎への純粋な好意。
無一郎もそれを分かっているからこそ、邪険に突き放すことができない。
けれど、心はどこか冷ややかに、ただ残してきた、愛しい婚約者ゆきの姿を追いかけていた…。
…ゆき…どこにいるの? どうして戻ってこないの?
本に目を落としながらも、文字など一切頭に入ってこない。
ただ胸を焦がすのは、自分が傷つけてしまった最愛の人への、狂おしいほどの恋しさと後悔だった。
その時、静寂を破って、勢いよく襖が開いた。
「……」
入ってきたのは、肩を小さく震わせたゆきだった。
けれど、彼女が目にしたのは、夜の部屋でやけに近くに寄り添い合う、無一郎と美月の姿…
ゆきの瞳が動揺し揺れる…。
叩かれた頬はまだ淡く赤みを帯び、その瞳は今にも零れ落ちそうな涙で潤んでいた。
「あ…ごめんなさい」
消え入りそうな声で呟き、ゆきはすぐに襖を閉めて背を向けてしまった。
「ゆき…!」
すぐに、襖を開き呼び止めた…
「私が、隣の美月さんの部屋を使うから二人はこの部屋を使って」
「何言ってるの?」
ゆきは、もう止まらなかった…
「私は明日もう帰る…しばらくゆっくり二人でここで、過ごしてきて…」
無一郎は、困惑する…
「この部屋は君と僕の部屋だよ」
「簪を隠した意地悪な私と無一郎くんは一緒に過ごしたいの?嫌でしょ?だから私は隣の部屋を使うから」
ピシャリと襖は閉じて、ゆきは隣の部屋へ行ってしまった。