第102章 刀鍛冶の里での罠〜時透無一郎 冨岡義勇【R強】
無一郎は、宿に戻る間も右手の震えを止めることができずにいた。
じんと残る感触が、自分が仕でかしたことの重大さを突きつけてくる。
…どうして、あんなことを
ゆきに手を上げてしまった激しい後悔が、胸を黒く塗りつぶしていく。
だけど…ゆきがあまりにも美月を毛嫌いするから、だから僕は…。
そう自分に必死に言い訳をしながら、彼は美月の待つ宿へと逃げるように足を向けた。
宿の部屋に戻ると、そこには心配そうに佇む美月の姿があった。
無一郎の青ざめた顔と、かすかに震える右手に気づいた美月は、すべてを察しながらも、あえて酷く心を痛めたような表情で彼に歩み寄る。
「無一郎様、どうされたのですか? そんなに手を震わせて…。もしかして、私のためにゆきさんとお話してくださったのですか? ごめんなさい、私のせいで、お二人が喧嘩になってしまうなんて…」
美月は潤んだ瞳で無一郎を見上げ、そっと彼の震える右手を両手で包み込んだ。
柔らかく、どこか計算された温もりが無一郎を包む。
「私、ゆきさんに嫌われても仕方がないと思っております。だって、無一郎様が私なんかと一緒に簪を探してくださったのが、きっと羨ましかったのでしょうね。…でも、私は無一郎様が味方でいてくださるだけで、それだけで本当に幸せなのです」
美月は健気さを装いながら、そっと無一郎の胸元に寄り添うように距離を詰める。
甘い言葉で無一郎のささくれ立った心を絡め取っていく。
無一郎はそんな美月の言葉にどこか違和感を覚えながらも、ゆきへの罪悪感から逃れるように、美月の身体をそっと抱きしめた。
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同じ頃、一人残された里の片隅で、ゆきは膝を抱え、ただ冷たい夜気の中で震えていた。
叩かれた頬の痛みよりも、無一郎の冷たい瞳と、去り際の言葉が胸を締め付ける。
どうしてこんなにもすれ違ってしまうのだろう…私が素直じゃないから?
私の心の何処かに…まだ…あの人がいるから?
「無理なのかな…私達…」
見上げた里の星空は、残酷なまでに綺麗だった…。