第102章 刀鍛冶の里での罠〜時透無一郎 冨岡義勇【R強】
美月さんは最初から、こうして私を陥れるつもりだったんだ。
わざと簪を隠し、それを口実に大好きな無一郎くんと過ごす時間を作り、頃合いを見て私の仕業に仕立て上げる。
そんな見え透いた罠に、彼はあっさりと嵌ってしまった…。
「君がそんな酷いことを言うなんて思わなかったよ」
氷のように冷たい言葉。
美月さんを、少しも疑わないんだね…
「酷い? だって本当の事だよ。美月さんは無一郎くんと簪探しに行くの楽しみにしているように見えたし」
寂しさと悔しさから、棘のある言葉が口を突いて出た。
その瞬間。
―パンッ
乾いた音が、静寂な夜の里に響き渡った。
何が起きたのか、一瞬理解できなかった。ただ、叩かれた頬がじんじんと熱く、痛い。
視界が涙で歪む中、私はそっと自分の頬に触れた。
無一郎くんはハッと我に返ったように目を見開き、今しがた私を叩いた右手を、左手で壊れそうなほど強く握りしめた。
その瞳には、困惑と、そして隠しきれない激しい後悔が揺れている。
「す、少しは反省してよね…」
震える声を絞り出し、無一郎は逃げるようにその場を去っていった。
一人残されたゆきは、崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込む。抱きしめた身体は寒さで震え、涙がとめどなく溢れて止まらない。
「痛いよ…」
あんなにすれ違って、ようやく取り戻した大切な絆。
私達は、いずれ婚姻を交わすのに…
すれ違う二人の心…
こんな時…都合良いと自分でもわかっている…
だけど、思い浮かぶ顔は…あなた…
義勇さん…
胸元の紙切れに、そっと触れる…
あの日もらった手紙
今私は無性に、あなたが毎日のように私を待っている川辺に行きたくなった。
なんてズルいの…私は、ズルすぎるよ…