第102章 刀鍛冶の里での罠〜時透無一郎 冨岡義勇【R強】
夜風が容赦なく、冷え切った私の頬を撫でていく。
宿を飛び出し、一人で佇む刀鍛冶の里は、すっかり夜の闇に包まれていた。
思えば、この里にはあまりにも多くの想い出が詰まっている。
かつて記憶を失っていた私。
この里で、無一郎くんを思い出した。
あの胸が締め付けられるような恋心も、彼と紡いだ絆も…この里で思い出した。
しかし、失われた時間の代償はあまりにも大きかった。
記憶がない間、私の心を支え、寄り添ってくれたのは冨岡義勇さんだった。
彼の不器用な優しさに触れるうち、私と義勇さんの距離は急速に縮まってしまった。
そして私がすべての記憶を取り戻したときには、気付かないうちに義勇さんの存在が大きくなっていた。
優柔不断な私は…二人とも突き放せなくなってしまった。
三人の関係は、ひどく複雑に絡み合ってしまっていた。
だけど、私は無一郎くんを選び今側にいる…。いずれ婚姻もする…。すれ違いの日々も終わったと思った…なのに…
「どうして、あんな見え透いた嘘を信じちゃうの…?」
ぽつりと呟いた声は、夜の静寂に吸い込まれていく。
美月さんの罠だと分かっていて、なぜ彼は私を冷たく突き放したのだろう。
もしくは、美月さんを信じているの?
冷たい夜風に当たりながら、ぼんやりと暗い里の景色を眺めて時間を潰す…。
どれだけ時間が経っただろう。冷え切った身体を抱きしめていると、背後から音もなく、気配が近づいてきた。
「…こんなところで何してるの」
振り返ると、そこには妖しく瞳を光らせた、無一郎が立っていた。
宿で聞いた冷たい声とは裏腹に、甘く心配したような声だった。
「ちょ、ちょっと散歩」
「部屋の前に、荷物だけ置いて君が居ないから探したよ!勝手な事をしないでよね。」
「中に入りにくかったから…」
「え?」
「美月さんと話してたし…」
無一郎の顔つきが変わる
「聞いてたなら話は、早い…君は、何で美月の大切な形見の簪を隠したの?」
あぁ…無一郎くん、私を本気で疑っているんだね…。
「いくら気に入らないからって、大切なものを隠すのは違うと思う。」
ゆきは、ふっと笑った。
「一緒に毎日無一郎くんと簪探しに行けて美月さんはうれしかったんじゃないかな?」
「何言ってるの?」
無一郎が、困惑した表情をゆきに向けた。
