第102章 刀鍛冶の里での罠〜時透無一郎 冨岡義勇【R強】
刀鍛冶の里へは、場所を秘匿するため誰もが目隠しをされ、バラバラの時間に連れられていく。
ゆきがようやく指定された宿へ到着した頃には、すでに辺りは薄暗くなっていた。
「無一郎様と美月様は、すでに奥のお部屋へご案内しております」
案内人の言葉に頷き、長旅の疲れを滲ませながら部屋の前へと歩み寄った。
お礼を告げて襖を開けようとした、その時だった。中から漏れ聞こえてきた美月の声に、ゆきの手がぴたりと止まる…。
「無一郎様…なくした母の形見の簪の件なのですが、言いにくいのですが…ゆきさんの部屋がたまたま開いていた時に、中に光るものがあって。よく見たらそれが、母の形見の簪だったんです」
「何かの間違いでしょ?」
「いえ、間違いありません。私のことが嫌いだから、意地悪で隠したんだと思います…」
すすり泣くような声。
ゆきは衝撃に目を見張り、息を呑んだ。
簪? そんなもの、私は見ていない…美月さんが嘘をついているんだ…。
胸がバクバクと嫌な音を立てる。
けれど、すぐに思い直した。昨夜、あんなにも強く自分を抱きしめ、独占欲を露わにしてくれた無一郎くん…
こんな見え透いた嘘、信じるわけがないよね…。
しかし、襖の向こうから返ってきた無一郎の声は、ゆきの淡い期待を無残に打ち砕いた…。
「ゆきが…そうか…。君のことを毛嫌いしているのは、分かっていたからね」
その声音はひどく冷たく、かつて不仲だった頃の、あの氷のような瞳を容易に想像させた…。
嘘…信じるの…?
頭を強く殴られたような衝撃に、ゆきはその場にへたり込みそうになる。
つい数時間前まで、痛いほどきつく手を握りしめ、「他の男と会話しないで」と狂おしいほどの愛を向けてきたのに…。
美月の前で見せる、あの甘く、自分を突き放すような冷たい態度…。
無一郎くん…私簪なんて知らない…私じゃないよ!心で叫んでいるのに、目の前の襖を開いて伝える気に何故かならなかった…。
私は、中には入らず宿を出た…。
夜風に当たりたかったから…