第101章 波乱の食事会〜時透無一郎 冨岡義勇【R強】
不意に背後から伸びてきた義勇の手が、わざと桶の縁を弾いた。
バシャ、と音を立てて冷たい水がゆきの頭から容赦なく降り注ぐ。着物が瞬時に肌に張り付き、寒さと驚きで頭が真っ白になった。
「な、何するんですか…?」
困惑で震える声。しかし、義勇は濡れたゆきの髪をそっと指先で払うと、悲しい瞳でゆきを見つめた。
「お前が言うように、俺は酔っているのかもしれない」
「え…?」
「今、俺は…卑怯な手を使ってでも、お前を取り返したいと強く思っている。酔って何が悪い?」
義勇は躊躇することなく濡れた体ごと近くの空き部屋へとゆきを力任せに引っ張り込んだ。
「何するんですか、放してください!」
バタン、と勢いよく襖が閉まる。抗うゆきの声を遮るように、義勇は強くゆきを抱きしめた。
「連れ帰りたい」
「馬鹿なこと言わないでください…こんなの、義勇さんらしくない!」
「俺らしいって何だ?」
「そ、それは…」
「水を被らせてすまない…」
腕の中から伝わる彼の鼓動は、私のものと同じくらい激しく波打っている。すがるようなその瞳に、隠し続けていた愛しさが溢れそうになる…けれど、駄目なんだよ。私たちはもう、あの頃の二人には戻れない。
「義勇さん…皆が私達が居ない事に気付く前に戻りましょう」
義勇は、じっとゆきを見つめたまま、なおも腕の力を緩めようとしなかった。
その時、廊下から荒々しい足音が近づいてきて、引き戸が凄まじい音を立てて開け放たれた。
「…おい、冨岡ァ…何やってやがる」
そこに立っていたのは、最初から義勇の様子がおかしいと勘付いていた不死川だった。鋭い眼光が、部屋の中の異常な光景を捉える。
「ゆきに会いてェって言うから、わざわざこの席を設けてやったんだろうが。遠くから眺めているだけの約束が…冨岡、テメェこれはどういうことだァ?」
不死川が怒りを露わにする。
しかし、次の瞬間、彼の視線が水浸しでガタガタと震えているゆきへと移った。
「…おい?ビシャビシャじゃねェか」
不死川は、すぐにゆきの方へと歩み寄ると、義勇の腕からゆきを強引に引き離した。
「おい、このままじゃ風邪ひくだろォが。着替えさせる。俺の部屋へ来い」