第111章 届かない手紙〜冨岡義勇【微R】
広い庭先で、無一郎は一心不乱に木刀で素振りをしていた。
ヒュン、と激しい風切り音が静寂を切り裂く。
汗に濡れた前髪の隙間から覗く瞳に映るのは、離れて暮らすゆきの面影だけだった。
ゆきへ想いを馳せるたび、不安が胸を押し潰しそうになる。
その割り切れない感情を振り払うかのように、無一郎はひたすら木刀を振り下ろし続けていた。
その時、頭上から羽音が降り立ち、空中に黒い影が現れた。
鎹鴉の銀子だ
地面に着地した銀子は、落ち着かない様子で羽を揺らしながら、甲高い声を張り上げた。
「無一郎! ゆきハ手紙ヲ何本モ送ッタッテ言ッテタワヨ! 返事ガ来ナイッテ、ワタシ以外の鴉ニ手紙ヲ預ケテタミタイヨ!」
銀子が告げた予期せぬ言葉に、無一郎は素振りをピタリと止めた。
「…何言ってるの? 僕は手紙なんて、一度も受け取っていないよ」
冷や汗が頬を伝う。
不審に思い眉をひそめる無一郎の様子を気にも留めず、銀子は誇らしげに羽を広げて言葉を続けた…。
「ダケド安心シナサイ! 無一郎ガ書イタ手紙ハ、アタシガチャントゆきニ届ケテヤッタカラネ!」
「…え?」
銀子の言葉を聞いた瞬間、無一郎の思考は完全に凍りついた。木刀を握る手に、ぎちりと強い力がこもる。
「僕が…手紙を書いたって…?」
息を呑み、驚愕に目を見開く。
なぜなら自分は、ゆきに向けて手紙など一通も書いていなかったからだ。
届いていない自分への便りと、書いた覚えのないゆきへの手紙。
すれ違いの裏に潜む歪んだ異変に、無一郎はとうとう気づいてしまった。
「銀子…その僕が書いたという手紙は、誰に頼まれたの?」
「美月ヨ!美月ニ頼マレテ届ケタワ!」
無一郎は、地面に木刀を叩きつけると、無残にも二つに折れた…。
「無一郎…」
銀子が、心配した様子で無一郎を見つめる。
木刀が、折れた拍子に無一郎は腕を少し切ってしまい血が流れていた。
そこに、無一郎を探していた美月が現れた。
腕から血を流す無一郎に、気付きすぐに駆け寄り心配そうに、声をかけた。
「無一郎様!?怪我をしたのですか?木刀も折れちゃてるじゃないですか?」
腕に触れようとした美月を、無一郎は力一杯突き放した。
近くの木の根まで美月は、吹き飛んだ。
「…っ…痛い…。」