第112章 言えない〜時透無一郎 冨岡義勇【R強強】
無一郎はゆきからゆっくりと自身を抜くと、そのまま隣へと倒れ込み、仰向けになった。
二人分の荒い呼吸が、静かな部屋の中に重なり合って響く。
「無一郎くん…いつもより加減してくれて、ありがとう…」
呼吸を整えながら感謝を口にするゆきに、無一郎は横顔を向けた。
「…ん。本当はもっと、思うように動きたかったけど。君がなんだか、調子悪そうだったから」
ゆきは何も言えなくなり、ただ溢れ出しそうな感情を誤魔化すように、隣に横たわる無一郎へ抱きついた。
「どうしちゃったの?」
無一郎は少し戸惑いながらも、腕の中の小さな体を愛おしそうに抱き返し、その髪を優しく撫でた。
「明日からまた離れ離れだけど、我慢してね」
静かな声で囁きながら、繰り返しゆきの髪を撫で続ける。
その温もりが嬉しくて、そしてあまりにも切なくて、ゆきは胸の奥が締め付けられるような痛みを覚えていた。
ーー
そして、夜が明ける。
朝日が差し込む部屋で、隊服に身を包んだ無一郎が出発の時を迎えていた。
刀を帯に差し、振り返ろうとしたその背中に、ゆきはたまらずしがみついた。
急に押し寄せてきた強い心細さと不安に、体が勝手に動いていた。
「無一郎くん…無事に、帰ってきてね…」
回された腕の震えと切実な声に、無一郎の胸はぐっと熱くなる。
彼はゆっくりと振り向くと、愛おしさに満ちた瞳でゆきを見つめ返した。
「うん…勿論だよ」
涙で濡れたゆきの頬を、指先で優しく拭う。
そのまま自然な流れで、唇と唇が深く重なり合った。
柔らかく愛を確かめ合うような口付けに、ゆきはそっと瞳を閉じる。
無一郎くん…ごめんなさい…
お腹に宿った小さな命の存在を隠したまま、愛する人を見送る切なさと罪悪感。
ゆきは心の中で何度も謝りながら、無一郎の温もりをその身に強く刻み込んでいた。
屋敷の門の前、隠達とゆきはこちらを振り返り手を振る無一郎を見送った。
無一郎は、大きく手を振る…ゆきを目に焼き付けようと目を向けていた少し後ろに…
屋敷へと向かってくる義勇と幸の姿を見つけた。
「こんなに、朝早くから来てるんだ…冨岡さん。安心だけど、違う意味で安心じゃないな…。」