第111章 届かない手紙〜冨岡義勇【微R】
ゆきは状況が呑み込めぬまま、義勇の膝の上に重なる体温をただ感じていた。
義勇が大きく深呼吸をする。
だが、重い口はなかなか開かない。
沈黙のなか、横抱きにされているゆきの耳には、義勇の胸の奥から響く鼓動がはっきりと伝わっていた。
「義勇さん……話って、何ですか?」
「……ゆき…嵐の夜を覚えているか?」
「嵐の…あっ、私が幸さんとお酒を飲んでしまった日ですね。覚えてます」
「実はあの日、お前は酒の前に…幸から手渡された別のものを口にしていた。あれは、媚薬の類だ」
「え……?」
思考が停止するゆきに、義勇は葛藤に満ちた声を搾り出す。
「理性を失ったお前を抱きかかえ、部屋へ運んだのは俺だ。…あの晩、俺はお前を抱いた…。お前の中で何度も果てた。お前もそれに狂おしく応え、何度も果てていたんだ」
耳を疑う言葉に、ゆきの顔から血の気が引いていく。
「だから……腹の子は、俺との子の可能性がある」
「そ、そんなの嘘ですよね?からかってるんですか!?」
ゆきは弾かれたように叫び、義勇の胸を激しく突きのけた。
溢れ出す涙で視界を歪ませながら、必死に首を振る。
「違います…! 私のお腹にいるのは、無一郎くんとの子です! 任務に向かう前夜、無一郎くんと……ちゃんと愛し合いました! だから、そんなの絶対に嘘です…!」
混乱してしまい、拒絶の言葉をぶつけるゆき。
そんな彼女の激しい反論を全身で受け止めながら、義勇は痛みに耐えるような眼差しで、逃がさぬよう強く抱きしめ直した…。
「嘘ではない…。お前が信じたくないのも当然だ。だが俺は、この事実から逃げるつもりはない。俺はお前に、子が出来てもおかしくない行為をした。その腹の中の命を……俺の子かもしれぬ命を、俺の全てを懸けて守る」
義勇の覚悟のある言葉がゆきに、重くのしかかる。
「私は…その夜、義勇さんを受け入れていたんですか?」
「ああ…無理やりではない。」
「そんな…」
溢れ出る涙を拭うこともできず、ゆきは呆然と呟いた。
自分でも気づかぬうちに義勇を受け入れ、身を委ねていたという事実に衝撃を受けながらも、腕のぬくもりと鼓動の温かさだけは、皮肉にも確かに感じていた。