第111章 届かない手紙〜冨岡義勇【微R】
自室に戻った無一郎は、鉛のように重い体を布団に沈め、薄暗い天井をただぼんやりと見つめていた。
疲労が全身を苛んでいるのに、頭の奥だけが妙に冴えて眠りにつくことができない。
まぶたを閉じれば、愛おしいゆきの面影が浮かぶ。
しかし、待てど暮らせど一通の手紙すらよこさない彼女への疑心暗鬼が、無一郎を狂わせていく。
「ゆき…今、何してるの?」
誰に届くわけでもない声が、静かな部屋で宙を舞い消えていく。
不安は次第に大きくなり、胸を締め付けた。
「もしかして…冨岡さんと一緒にいたりしないよね…抱き締めてもらったりしてないよね?」
自分はこんなにも遠く離れた地で孤独に戦い、すり減っているのに、ゆきはあの人の腕の中で笑い合っているのだろうか。
根拠のない嫉妬が無一郎の心を激しくかき乱す。
その時だった。ゆっくりと、何も言わずに襖が開く音がした。
「…なに?」
無一郎は身じろぎもせず、素っ気ない声を投げかける。
そこに立っていたのは、浴衣に身を包み、ほんのりと頬を赤らめた美月だった。
「無一郎様…あの、今夜も…」
伏し目がちに、恥じらいを帯びた声で囁く美月
だが、無一郎の瞳に美月への愛情は一切ない。
「勝手にすれば」
無一郎は感情を殺した声でそう言い放つと、手元の明かりを吹き消し、美月に背を向けるように寝返りを打って目を閉じた。
突き放すような態度にも美月は動じることなく、静かに無一郎と同じ布団の中へと滑り込んできた。
何もない
言葉を交わすことも、肌が触れ合うことすらもない
無一郎にとっては、狂おしいほどのゆきへの寂しさを紛らわすための、残酷で虚無的な行為でしかない。
しかし、疲れもありいつしか暗闇の中で二人の寝息は静かに重なり合っていく。
美月は、絶対に自分の方を向いてくれない無一郎の背中を見つめていた…。
触れることができなくても構わない。
こうして一番近くで隣に眠ることを許されているのは自分だけなのだから。
遠く離れたゆきを出し抜き、無一郎の夜を独占しているという圧倒的な優越感が、美月の歪んだ心をどこまでも甘く満たしていた。
「無一郎様…お慕いしております…」
小さく呟き美月は、また眠りに落ちていった…