第111章 届かない手紙〜冨岡義勇【微R】
遠く離れた地で、無一郎は、深い闇の中に囚われていた。
美月の実家を拠点にした長引く任務…。
無一郎は、鬼の巨大な巣窟が近くにある気配を感じ取りこの地で長らく滞在しながら巣窟を探る事になり、連日の激しい戦いで心身ともに疲れ切っていた。
「無一郎様、お疲れ様です。少しでも温まってくださいね」
亡き母の面影をどこか彷彿とさせる美月の母親が、毎夜のように温かい食事と労いの言葉を差し入れてくれる。
さらに、美月自身も同じ鬼殺隊士として共に戦い、傷だらけになりながらも甲斐甲斐しく自分の世話を焼いてくれていた。
母を亡くして以来、忘れていた温もり。
ゆきの温もりとはまた違う…
母に求めていた温もり…
家族の温もり…
両親それに兄を失い孤独だった無一郎の心にとって、その優しさはあまりにも心地よく、染み入るものだった。
だが、無一郎の心の片隅には、いつもゆきの姿があった。
ゆきもまた自分を、癒してくれる温もりだったから…
ゆき、どうしているだろう…。
手紙すら、一度も届かない…なぜ?
鴉を通して何か音沙汰があってもいいはずだ。
不安と寂しさが募る中、無一郎は美月の優しさにすがり、いつしかその絆に依存するように心を預けていってしまっていた…。
しかし、それはすべて美月の周到な罠だった。
無一郎の知らないところで、美月は伝令鴉が持ち込んだゆきからの手紙をすべて奪い、なんと、炎にくべていたのだった。
「私だけを見て、無一郎様…ゆきの事は忘れてください。」
灰と化した手紙を見つめながら、美月の歪んだ執着はさらに深く、闇を広げていく…。
互いを想い合いながらも、見えない悪意によって引き裂かれていくふたつの心。
無一郎は、夜食事を終えるとふらふらしながら自室へと続く廊下を歩いていた。
庭先で、赤く光る炎を目にした。
目を凝らしてよく見ると美月が、何かを燃やしていたのだった。
無一郎は、気にもとめず疲れた体を休めるために部屋へと戻って行った。
燃やされているものが、愛おしいゆきからの手紙だと気づかずに…