第110章 身体の異変〜冨岡義勇【R強】
自身の過ちを含め、順序立てて全てを打ち明けたいと願う義勇をよそに、幸は彼女を不安なままにしておくべきではないと思った。
「ここ数日続いていた吐き気も、ひどい目眩も…体調がすぐれないのは病気などではありません。ゆきさんのお腹に……新しい命が、宿ったからですよ」
その言葉が落ちた瞬間ゆきは瞬きすら忘れ、完全に言葉を失っていた。
信じられないといった様子で、自身の腹部に添えられた義勇の大きな手へと視線を落とす。
義勇は放心状態となってしまったゆきを背後からギュッと強く抱きしめ直した。
そして、まだ膨らみのないお腹をゆっくりと擦る。
俺の、子だ…
あの激しい嵐の夜。媚薬で意識が朦朧としていたお前に目隠しを施し、無一郎だと錯覚させたまま抱いた。あの時に出来た命だ…
「幸さん…? 私は、子供を授かったんですか…?」
ゆきの声は微かに震えていた。
「ええ。私の見解では、間違いなくそう思われます」
その確信に満ちた返答を聞いた瞬間、ゆきの瞳から大粒の涙が溢れ落ち、感極まったように震える声で呟いた。
「無一郎くんとの…赤ちゃん…」
―その甘く幸せに満ちた一言の衝撃は、義勇と幸の心臓を突き刺した…。
…時透、だと?
義勇はゆきを抱きしめたまま、信じられない思いで目を見開いた。
嵐の夜、義勇に抱かれたことなど、ゆきは微塵も気付いていない。
目隠しをされ、無一郎だと信じ込んで甘い声で啼いていた彼女は、あの夜の出来事を寂しさのあまり見た『淫らな夢』だと完全に思い込んでいる。
だとしても、任務に出ている時透との子だと何故ゆきは、思うのか?
幸は、すぐにもう一つの考えを出した。
霞柱様が長期任務へと旅立つ前日、ゆきさんと柱は、きっと確かに深く愛し合っていたのだと…。
そしてその後、嵐の夜にゆきさんは師範に抱かれた…。
ゆきさんはあの嵐の夜の交わりを夢だと思っているからこそ、霞柱様の子だと信じて疑わない。ならば余計に…
幸はスッと血の気が引くのを感じた。
このお腹の赤子は、一体どちらの子なのか。
詳しく診察する必要があるな…
無邪気な嬉し涙を流すゆきと、困惑する義勇を見ながら幸は思った。