第110章 身体の異変〜冨岡義勇【R強】
幸は、不安に震えるゆきの手をそっと包み込み、優しく微笑んだ。
しかし妊娠という事実を告げなかった。
持参した果物を切り分けて食べさせ、心を何とか落ち着かせた。
しばらくして、ゆきは安心感からうとうとと眠りについた。
幸は「残りの果物を隠に渡してきますね」と言い残し、静かに部屋を出ていった。
薄暗い室内に、ゆきと義勇の二人きり取り残される。
青白い顔をしたゆきが、うっすらと目を開け、かすれた、消え入りそうな声で呟いた。
「…義勇さん。無一郎くんの近況とか、何か聞いてますか?」
「いや…美月の実家で、任務遂行中としか…」
「そうですか」
「私…無一郎くんが帰ってくる前に…死んじゃったらどうしよう」
そのあまりに弱々しい言葉に、義勇は衝動を抑えきれず、思わず覆い被さり抱きしめていた。
「違う! お前は病などではない! 」
そう告げると、義勇は身を起こし、震えるゆきの頬に両手をそっと添えた。
「ゆき……何の音沙汰もない時透との婚約を解消して…俺と一緒にならないか?」
突然の言葉に、ゆきは驚き、身体を起こした。
二人は向かい合うように布団の上に座る。
「何を言うんですか? 私は無一郎くんのものです。義勇さんとは、もう何も、ないんです…」
「何も無くなどない」
義勇は、逃がさぬようにゆきの両手首を強く、握りしめた。
「い、痛いです…!」
思いがけない力の強さに身をよじると、義勇は絞り出す声で言った。
「俺たちの間には、確かなものがあったはずだ。いや…確かなものが出来たんだ…。何も無くなど…ない。何も無いなんて言わないでくれ」
「何のことですか…? 私はもう、義勇さんの継子でもないんですよ?」
ゆきは激しい困惑に胸を痛めた。
つい最近まで自分と目も合わせず、素っ気ない態度をとっていた義勇。
警備を兼ねてこの道場に通うのにさえ嫌気が差したのだと、ゆきはずっと勘違いしていた。
最近その蟠りが解け、ようやく以前のような穏やかな、関係に戻れたと思っていた矢先のこの義勇の言葉に、ゆきの気持ちが追いつかない…。
その時、またもやゆきは気持ち悪くなり口元を押さえた。
それに気付き水桶を用意し義勇は、背中を擦った。