第110章 身体の異変〜冨岡義勇【R強】
「別の確信…?」
義勇の問いかけに、幸は一呼吸置き、静かに告げた。
「お腹に、新しい命が宿っているのではないかと考えております。…多分…ゆきさんには…子が出来ています」
「な…っ!」
まさかそんな言葉が飛び出すとは思っていなかった義勇は、息を呑み、わずかに身じろぎした。
動揺の色が隠せない…。
しかし、医術の心得がある幸の瞳には、冗談や迷いの色など一切なかった。
「動揺されるのも無理はありませんが、私には確信があります。あの吐き気や眩暈はつわり特有のものです。心労や単なる病気などではない」
「待て、幸…。なぜ、そんなことが分かる」
義勇が絞り出すように問うと、幸は真摯な面持ちのまま、およそ二週間前のあの夜へと話を向けた。
「思い出してください、師範。あの激しい嵐の夜を」
その言葉に、義勇の背筋が凍りついた。記憶の蓋が音を立てて開く。
あの夜、ゆきは幸が寝つきが悪い時に飲んでいる、媚薬を飲みその後は、酒も飲んだ。
意識が混濁し、熱に浮かされたゆきは、目の前にいた義勇を途中から無一郎だと錯覚していた。
―俺は、あの日…
罪悪感と狂おしいほどの想いに耐えかね、理性が崩れ去る中で、俺は夢中でゆきを抱いた。
何度も…何度も…
翌朝…罪悪感でいっぱいになり、義勇はすべてを「夢」として忘れさせなければならないと思い詰めた。
ゆきに余計な苦しみを背負わせないため、幸にすべてを打ち明け、抱いた形跡や証拠を完璧に消し去った…。
証拠隠滅を徹底したからこそ、ゆきはこの事実を一切知らないまま過ごしていた。
「あの日、私たちがどれだけ痕跡を消そうとも…命の芽生えまでは消し去れなかったということです」
幸は静かに、残酷なまでの真実を告げた。
「無一郎様と思い込み、師範の腕に抱かれたあの夜。その時にできた子が、今、ゆきさんのお腹の中で確かに息をづいています。…師範、どうなさるのですか?」
静まり返った部屋の中で、その問いかけだけが重く響き渡っていた。
「だからあの夜…女である私が媚薬で生じた熱を逃すと言ったのです。男はいつも欲望のために、女を傷付けてしまう…。」
義勇は、言い返す言葉がなくただただ震える手を握りしめていた。