第110章 身体の異変〜冨岡義勇【R強】
ゆきを激しく抱いた嵐の夜から、さらに一週間が経とうとしていた。
時透はまだ任務から戻っていない。
鎹鴉の報告によれば、美月の村に現れた鬼を無事に討伐したものの、近隣に鬼の住処が存在する可能性が高いため、美月の実家を拠点として引き続き調査と任務を続行することになったという。
その旨を伝えたばかりの俺の目の前で、ゆきは淋しく肩を落として座っていた。
「…こんな話、義勇さんにすることじゃないと分かっているんですが…聞いてくれますか?」
ぽろぽろと零れ落ちそうなほど大きな涙を瞳に溜め、ゆきがすがるような目で見つめてくる。
「話せ」
短く促すと、ゆきは弱々しく視線を落とし、溢れそうになる涙を必死に堪えながら言葉を紡いだ。
「無一郎くんに、鴉を使って何度かお手紙を出しているのですが…一度も返事が来ないんです。もしかして…私のこと、嫌いになってしまったんでしょうか…?」
「返事がないのか?」
「はい…一度も…」
ゆきの絞り出すような胸の内を聞きながら、俺はすぐに強い違和感を抱いた。
俺の元には、柱としての通信網を通じて時透の任務状況が詳細に共有されている。
ならば、通常の連絡手段であれば手紙が届かないはずがない。
ましてや、あの時透がゆきからの文を無視するなど考えられないことだ。
連絡が遮断されている…。
そう直感した俺の脳裏に、一つの嫌な可能性が浮かび上がった。
時透の留守に乗じ、誰かが意図的に二人を切り離そうと画策しているのではないか。
あるいは、文そのものが途中で握りつぶされているのか—。
よく考えたら二人が仲違いする絶好の時ではないか…このまま何も言わなければ、二人の仲は…
いいや…駄目だ
「…時透が、お前を嫌うはずがない」
甘い罪悪感と胸の奥の疼きを押し殺しながら、俺は…こんな言葉をゆきにかけていた。
「もしかして、無一郎くんは…美月さんの事が好きになったんじゃ…?」
「そんなわけないだろう?何か文を、返せない理由があるのだろう。」
俺は、ゆきが好きだ…こんな悲しい顔見たくない…。だから…
悲しませる言葉は、言いたくなかった。
ただ…安心させたかった。