第110章 身体の異変〜冨岡義勇【R強】
媚薬騒動の夜から、一週間ほどが過ぎた頃のことだった。
警備を兼ねた稽古のため、義勇と幸は毎日欠かすことなく夕刻まで道場に通っていた。
今日聞こえてくるのも、張り詰めた空気の中で激しく木刀がぶつかり合う音だ。
昼の休憩時間になると、ゆきは二人のために冷たい飲み物と軽い昼食を用意して道場へ向かうのが日課となっていた。
彼女の姿を見つけるなり、幸はパッと表情を輝かせて駆け寄ってくる。
「毎日ありがとうございます、ゆきさん」
汗を手拭いで拭いながら、幸は嬉しそうにゆきの隣へと寄り添うように腰を下ろした。
爽やかな笑みを浮かべる幸とは対照的だったのが、義勇だった。
闇の中で正体を隠したまま、ゆきを激しく抱いてしまった…。
その甘美で重い罪悪感を胸に抱えたまま過ごす義勇は、とてもではないがゆきとまともに目を合わせることができずにいた。
視線を固く逸らし、どこか距離を置くような義勇の態度。
…やっぱり、義勇さん…なんだかおかしい
ゆきは、そんな彼の変化にとうに気づいていた。
どこかよそよそしく、あからさまに自分を避けているような振る舞い。
あの嵐の夜の違和感は消え去ったものの、今度は目の前の義勇の態度がゆきの心を曇らせていく。
私…何か義勇さんに、嫌がるようなことをしてしまったのかな…それとも、毎日意味のない昼間の警備を兼ねた稽古が苦痛なのかもしれない…。
義勇さんも、自分の道場で稽古する方が効率いいもの…。
毎日来てくれるのも、無一郎くんや甘露寺さんを立てるための義理よね…。
避ける義勇と、思い悩むゆき…。
今日、お昼の警備は大丈夫ですって伝えよう。
いつまでも、甘えていたら駄目だし
ゆきは、心にそう決めた。
目の前で、軽食に作ったおにぎりをどこか遠くを見つめて食べている義勇に、ゆきは意を消して話しかけた。
「あ、あの義勇さん…」
ふいに、声をかけられ義勇は驚き目を泳がせながらゆきの方を見た。
「な、何だ?」
駄目だ…声が上ずっている…義勇は、そんな事を考えながら皿に食べかけのおにぎりを戻した。