第110章 身体の異変〜冨岡義勇【R強】
時間が経ってもゆきの頭からあの曖昧な記憶が離れることはなかった。
身体に残る熱と疼き、甘く痺れるような感覚…。
それは間違いなく誰かに激しく求められた証拠だった。
しかし、周囲を見渡しても、あるいは自分自身の衣服を確かめても、そこには何ひとつ不自然な痕跡など残っていない。
「久しぶりにお酒を飲んで、おかしな夢でも見てしまったのかな…それとも、無一郎くんに会えない寂しさが、こんな幻覚を見せたの…?」
ゆきは気分転換を兼ねて、庭へと足を踏み出した。
昨夜の嵐の爪痕が色濃く残る庭では、折れた木の葉や小枝が散乱し、後始末に追われる隠たちの姿があった。
「私も、少し手伝おうかな」
そう思って歩を進めた矢先、建物の陰から、片手に小枝を抱えた義勇がふと姿を現した。
突然の遭遇に、ゆきは足を止める。
彼女に気づいた瞬間、義勇の背筋がわずかにこわばった。
義勇はひどく動揺した様子で、抱えていた小枝をその場に盛大にぶちまけてしまったのだ。
俺は…ゆきを見て動揺しているのか?
散らばった枝を見下ろしながら、義勇の胸の内で昨夜の記憶が激しく暴れ出す。
闇の中で触れ合った滑らかな肌の感触、切なげに漏らされた喘ぎ声、そして時透を呼ぶ声…そのすべてが鮮明に蘇り、抑えきれない熱が義勇を再び貫いた。
しかし、そんな内側の葛藤など露知らず、ゆきはただ静かに、じっと義勇の様子を見つめている。
何も知らない澄んだ瞳が自分に向けられるたび、義勇は甘美な罪悪感に締め付けられ、息が詰まるような思いだった。
「あの…義勇さん!昨夜の私の事をお聞きしたいんですが?」
義勇は、ぶちまけた小枝を拾う手が止まる…。
「何だ?」
「どうやら、私お酒を飲んでしまい酔いつぶれたようで…幸さんに部屋に運んでいただいたみたいなんです。」
「そうだったのか。」
「義勇さんは、昨夜の酔った私に会いましたか?」
「……いや、会っていない」
実は、ゆきは少し義勇を疑っていた。昨夜義勇にもしかして抱かれたのではないのかと…
「そうですか。」
いつもと変わらずな様子の義勇を見てゆきは、胸を撫で下ろした。
やはり、夢だったのかな…良かった…夢で…