第109章 妖しい三人の夜〜冨岡義勇【R強強】
運命の悪戯か、外の嵐は勢いを増すばかりだった。
重苦しい空気の漂う夕食の席にゆきが着くと、正面には幸が座っていた。
昨日の強引な口づけが頭をよぎり、動揺からとてもまともに顔を見ることができない。
視線を落とし、箸を進められずにいるゆきへ、幸が爽やかな笑みを浮かべて声をかけてきた。
「ゆきさん。急にお邪魔することになってしまい、申し訳ありません」
申し訳なさそうに言いつつも、どこか余裕を感じさせるその声音…幸はかなりの上手だった。
ゆきの反応を確かめるように、静かに言葉を続ける。
「ゆきさん…もしかして、昨日唇に触れたことを気にされていますか?」
その言葉が出た瞬間、隣で静観していた義勇の箸がピタリと止まった。
部屋の空気が一瞬で凍りつく。しかし幸は意に介さず、朗らかな調子で言葉を重ねた。
「私の故郷には年の離れた妹がいましてね。愛おしさのあまり、昔はよく唇に触れていたものです。あれはほんの戯れの口づけ愛情表現の一貫です。」
その説明を聞き、ゆきは少し考えたが…「なんだ、ただの勘違いだったのか」と自分の中で整理をし胸を撫で下ろした。
沈んでいた心が少し軽くなった気がした。
流石に、女同士だし…私の考えすぎだったんだ。
だが、義勇の考えは違った。幸の眼光の奥にある確かな企みに気づいている義勇は、鋭い視線を幸へ注ぐ。
ゆきの警戒を解くための巧みな嘘だと見抜いていた。
すると幸は、追い打ちをかけるように続ける。
「実は昨日の腕の怪我が少し痛みまして…ゆきさん、良ければお風呂で背中を流していただけませんか?」
「駄目だ!」
幸の提案を遮るように、義勇の声が響いた。
畳を強く叩いて立ち上がった義勇の体からは、尋常ではない圧迫感が放たれる。
「そうですか…わかりました。」
悲しい表情になった幸は、以外にもあっさりと引き下がった。
義勇も、拍子抜けしてしまう。
幸は、食事を早々に終え部屋を出て行ってしまった。
ゆきが、義勇の側に腰を下ろした。
「義勇さん…幸さんのお風呂手助けしてはいけませんか?」
まさかの言葉に、義勇は驚き思わずゆきの手首を掴んでいた。