第108章 不安〜冨岡義勇【R】
手当てを終えたちょうどその時、廊下から義勇の声が響いた。
「終わったか?」
義勇の問いに応えようと、ゆきが顔を上げた……その瞬間だった。
視界いっぱいに幸の顔が迫る。
驚きにゆきが目を見開いたのと同時に、耳元で吐息とともに小さな囁きが降ってきた。
「女同士だから気にしないで。……お礼です」
言葉が終わるか終わらないかのうちに、そっと唇が重ねられる。
柔らかな感触と温もりが脳を痺れさせ、ゆきの思考は真っ白に染まる…。
ゆっくりと唇が離れた瞬間、返事のない二人を不審に思ったのか、勢いよく襖が開け放たれた。
「…な、何をしていた?」
義勇が、焦った表情を見せながら立っていた。
しかし、彼の目に映ったのは、真っ赤になった顔で目を潤ませ、明らかに動揺しているゆきの姿…。
その様子に、義勇の胸の奥で嫌な予感がした。
さらし姿のまま立ち上がった幸は、どこか艶っぽい笑みを浮かべると、ゆきの頭を愛おしそうに撫でてみせた。
「見ての通り、手当が終わったところですよ。…師範、私一応『女』ですから。そんなに警戒しないでください」
その言葉とさらし姿にハッと我に返った義勇は、気まずさに背を向け、部屋を出ようとした。
…だが、どうしても拭いきれない違和感が義勇を突き動かした。
義勇は咄嗟にゆきの腕を強く掴むと、そのまま半ば強引に連れ出したのだった。
廊下を引かれて歩くゆきは、奪われた唇を片手で押さえたまま、ぼんやりと空を見つめている。
手に伝わるゆきの体温と、その呆然とした横顔。
ただの手当てにしてはあまりに乱れたゆきの雰囲気に、義勇の胸を押し潰すような苛立ちは、さらに深くくすぶる。
屋敷の奥の人目のつかない物置を見つけ義勇は、その部屋にゆきを連れて入った。
「なぜ、そんなに顔が赤い?」
ゆきは、慌てた様子で顔に手を当てる。
「赤いですか!?」
明らかに動揺しているのが手に取って分かった。
義勇は、幸が何かしたに違いないと考えるだけで嫉妬で狂いそうになった。
薄暗い物置の隅に座布団が重ね置かれている場所がありその上にゆきを、気が付けば押し倒していた。
驚きでゆきは、目を見開き動けなくなっていた。