第108章 不安〜冨岡義勇【R】
義勇は木刀が飛んでいった場所に居るゆきを、心配し慌てて駆け寄ろうとした。
しかし、入れ違いのように、廊下の陰からゆきが飛び出してきた。
「幸さん、大丈夫ですか…!?」
駆け寄ったゆきは、幸の傷ついた腕を優しく包み込むように持ち上げる。
驚きに目を見張る幸だったが、至近距離で見つめ返してくるゆきの熱心な瞳と、肌から伝わる温もりに胸の高鳴りを抑えきれずにいた。
そんな二人の様子に、義勇の胸がチクリと痛む。
嫉妬している自分を隠すように、義勇は硬い声をかけた。
「大袈裟だ。…ゆき、気にするな、続きを始めるぞ」
「血が出ているんですよ? 今は手当が先です」
ゆきは普段の遠慮がちな態度を吹き飛ばすように義勇の言葉を突っぱねると、幸にぴったりと寄り添い、屋敷の奥へと歩き去ってしまった。
「何なんだ…俺が怪我してても同じ様にしてくれたのか?」
残された道場で、義勇の胸には焦燥と苛立ちがくすぶり続けていた。
自分の差し伸ばした手は届かないのに、幸には何の迷いもなく歩み寄るゆき…
その理不尽なまでの拒絶と好意の差に乱れた心を鎮めるように、義勇は一人、無心で木刀を振り下ろすしかなかった。
ーーー
屋敷の一室で、ゆきは手際よく消毒液と包帯の準備を進めていた。
「少し沁みますが、耐えてくださいね」
そう言って振り向いたゆきの前で、幸は静かに隊服のボタンへ手をかけていた。
一つ、また一つとボタンが外され、肌が露わになっていく。
男顔負けの研ぎ澄まされた筋肉が露わになる…その胸元には、きっちりと固く巻かれたさらしの白い布地が覗いていた。
同じ女性なんだよ…私何動揺しているんだろう。
顔を赤くしたゆきが、気まずそうに目を泳がせている。
幸は、それに気付きゆきの頬に、そっと手を伸ばした。
急に触れられ身体が、ビクッと反応する。
「ゆきさん、かわいい…緊張しているんですか?」
「え?べ、別に普通ですよ」
幸はどんどん距離を詰めてくる…腕から流れる血がゆきの着物を汚すくらい距離を詰めてきた。
「は、早く手当を…」
幸は、フッと笑顔を作り潔く怪我をした腕をゆきに差し出した。