第108章 不安〜冨岡義勇【R】
それからというもの、毎日のように義勇と幸が屋敷の道場を訪れ、稽古に励む日々が始まった。
しかし、その裏には明らかな矛盾が存在していた。
無一郎が夜間の警備のために配置を指示したのは、腕の立つ別の隊士たちだったからだ。
鬼という存在は、夜の闇に紛れてしか現れない。
日中にどれほど厳重な警戒を敷いたところで、実質的な防衛としての意味は薄い。
義勇に警備を頼んだというのは、あくまで表向きの口実に過ぎない。
無一郎は直接言葉にすることなく、行動をもって「ゆきは、渡さない」という強い意思を、義勇へ突きつけていたのだった。
昼間の稽古中、道場で二人の木刀が交錯する。
義勇の研ぎ澄まされた剣技に食らいつきながら、幸はちらりと道場の外に目をやった。
廊下の陰から、どこか落ち着かない様子でこちらを見守っているゆきの姿がある。
…本当に、守ってあげたくなるような人
愛らしく儚げなその佇まいに、幸の胸の奥が小さく高鳴った。
男顔負けの剣技を持ち、隊士として生きてきた自分にとって、ゆきのような存在はあまりにも眩しい。
同性としての憧れか、あるいはそれ以上の感情なのか…自分でも正体のつかない甘い熱が、胸の中に広がっていくのを感じていた。
一方で、義勇もまた稽古をしながら、意識の限界までゆきの気配を探っていた。
自分を避け、意図的に視線を外そうとするゆきの頑なな態度。
義勇は心中で小さく溜息をつく。
今、時透が任務で側にいない不安を俺が埋めてやりたいが…かえって迷惑になっているな
ふと手合わせ中の幸に目を向けると、彼女もまた廊下の陰にいるゆきの姿を目で追っていた。
やはり、ゆきを見つめる視線に含まれる熱が妙に妖しい…義勇は密かに眉をひそめる。
ゆきを巡る奇妙な視線の交差に、義勇の心は静かに揺れていた…。
「おいっ!余所見をするな!」
義勇の強烈な一打が、幸の腕に入り幸は木刀を飛ばされその場に崩れ落ちた。
飛んだ木刀が廊下の陰に居たゆきの足元に落ちたのだった。
幸の腕には、少し血がにじんでいた…。
思わず義勇も、力が入ってしまった。