第108章 不安〜冨岡義勇【R】
「昼間は警備を兼ねてこの道場を使わせてもらう。隠に稽古の許可を取ってきてくれ」
義勇は静かな声で幸に指示を出した。
どこか冷ややかで淡々とした態度それにまたゆきと引き離そうとする態度に、幸はまた不服そうな表情を浮かべる。
返事をして部屋を出て行こうとした、その時だった。
ゆきはとっさに幸の腕を掴んでいた。
「あ…」
予期せぬ行動に、義勇が驚きに目を見開く。
「私が隠に聞きます。幸さん案内します」
「ゆき…?」
背後から義勇が困惑混じりに呼びかけるが、ゆきは決して振り返らなかった。
とにかく義勇と二人きりになりたくなかった。
今この場に残れば、先ほど奪われた濃厚な口づけの熱と、胸を苛む強い罪悪感に押し潰されてしまう。
無一郎と愛し合ったこの部屋で、義勇の熱に流されかけた自分の弱さが怖かった。
咄嗟に掴んだ幸の腕の感触に一瞬ドキッとしたが、よく考えたら同性だし…甘露寺さんだってこれくらい距離が近いと自分に言い聞かせ、動揺を必死に押し殺した。
「え、あ…はい!」
戸惑う幸の手を引いたまま、ゆきは隠の元へ向けて足早に歩き出した。
義勇から逃げるように、すがるような思いで廊下を急ぐ…。
残された静かな部屋で、一人佇む義勇。
去っていく背中をじっと見つめながら、先ほどまで束縛していた手のひらに残るかすかな温もりと、明確な拒絶にそっと静かな吐息を漏らす…。
「…俺を避けているのか?ゆき…」
ぽつりと溢れ落ちた低く切ない義勇の呟きだった。
ーーー
幸とゆきは、道場にいた。
「ゆきさん、これから毎日会えますね」
距離が、なんとなく近い幸さん…悪い人ではなさそうなんだけど…
「すみません…私が力不足なもので…元義勇さんの継子としてお恥ずかしいです。」
「柱が不在の屋敷が、もし鬼に嗅ぎつけられれば襲撃されるかもしれません…あなたは、もう一般人です。私達に、頼ればいいんですよ。」
幸さんは、優しい…容姿が少し男の子っぽいだけで女の子だから、仲良くなれるような気がする。
ゆきは、義勇の不安をよそに幸に心を開き始めていた。
「師範を、呼んできます。ゆきさんありがとうございました。」
幸は道場を後にした…