第108章 不安〜冨岡義勇【R】
抱きとめようと咄嗟に手を伸ばした幸よりも速く、義勇の強い腕がゆきの体をすっぽりと抱きとめていた。
「危ないじゃないか」
「ぎ、義勇さん…!」
不意の衝撃と至近距離にある義勇の顔に、戸惑う。
「また怪我をしたら大変だ」
「大丈夫です、もう歩けますし…あの、おろしてください」
恥ずかしさのあまりモジモジと身をよじるゆきの抵抗など、義勇はどこ吹く風だった。
ゆきをしっかりと抱えたまま、迷うことなく草履を脱ぎ、縁側からそのまま屋敷の中へと足を踏み入れる。
「義勇さん!?」
「部屋まで連れて行く」
有無を言わさぬ低い声。
そのまま静かに歩き出す義勇の背中を、庭に残された幸はただじっと、見つめていた。
自分の部屋へと運び込まれたゆきだったが、義勇は降ろすどころか、そのまま畳の上にあぐらをかいて座り込んだ。まるで小さな子供をあやすように、膝の上にすっぽりと収めた。
「あの…本当に、離してください」
顔を真っ赤にして腕の中で必死に藻掻くゆきだったが、義勇の腕はビクともしない。
義勇は顔色一つ変えず、淡々と告げた。
「聞いてくれ。…時透は、まだまだ任務から帰らないそうだ。それに甘露寺も伊黒と共に別の街へ赴くことが、今朝決まった。…甘露寺にお前のことを頼まれたんだ」
「えっ…甘露寺さんが…?」
その言葉に、ゆきの動きがぴたりと止まった。
安らぎを与えてくれていた存在が、遠くへ行ってしまう。
途端に、胸の奥から冷たい不安が押し寄せてきた。
鬼殺隊の隊士を離脱してからというもの、一切の稽古をしていない。
もし今、この屋敷に鬼が襲来したらどうなるのだろう。
身の回りの世話をしてくれている隠たちは戦えない。
今の私に、自分どころか隠たちまで守り切る力があるだろうか?
急激に膨らんでいく恐怖と不安に、ゆきはただ身をこわばらせることしかできなかった。
そんなゆきの表情を、義勇は見逃さなかった。
「だから、甘露寺にお前の事を頼まれたと言っただろう。」
そう言いながらゆきをぎゅっと抱きしめた。
「不安なんだろう?そんな顔をしている。」
「あ、あの…義勇さん…」
「大丈夫…俺が居るから。時透には、許可を取った。」
「え?無一郎くんに?」
「そうだ」