第108章 不安〜冨岡義勇【R】
義勇は、そっとゆきの肩から手を離した。
指先から伝わる体温を離しがたく思いながらも、諭すような穏やかな声で告げる。
「…困ったことがあれば、俺に言ってくれ」
その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられた。
義勇さん…ダメなの。義勇さんには頼れない…
義勇に対する申し訳なさと、自分の置かれた状況への葛藤に唇を噛み締め、俯きながら断りの言葉を口にする。
「無一郎くんには…甘露寺さんを頼るように言われていて。…ごめんなさい」
拒絶された義勇の表情に、かすかな寂しさが影を落とした。
しかし、義勇は責めることもなく、どこか切ない笑みを浮かべる。
「そうか…」
「ありがとうございます。そんな風に気にかけてくださって…」
「俺は……お前を、気にかけたいんだ」
まっすぐで温かい言葉。けれど今の自分にはその優しさが眩しすぎて、気まずさに耐えかねて再び深く俯いてしまった。
会話は途切れ、部屋は静まりかえる。
気まずい沈黙を破るように、精いっぱいの声を出した。
「…幸さんが、待っているんじゃないですか? 早く行ってあげてください」
これ以上ここに居てはゆきの負担になると悟ったのか、義勇は「…ああ」と小さく呟き、名残惜しそうに視線を彷徨わせながら部屋を後にした。
パタンと襖が閉まり、完全に一人の空間に戻ると、小さく息を吐き出して胸に手を当てた。
今日はいろいろなことが起こりすぎて、頭が混乱してる…
ふと視線を落とすと、机の上に置かれた紙飛行機の束が目に入った。無一郎が自分のために折ってくれたものだ。
足の裏の怪我をかばいながら、膝で這うようにしてそこまで移動する。
そのうちの1つを大切に手に取り、愛おしそうに胸元へ強く抱きしめた。
「無一郎くん…私、もう頭がぐちゃぐちゃになっちゃってるよ…」
ポロポロと涙が溢れ出し、紙飛行機を濡らしていく。
会いたい人の名を呟きながら、ただ静かに泣き続けた。
襖の向こうでは、義勇はまだ部屋の前に佇みゆきのすすり泣く声を聞いていた…。
部屋の中に戻り抱きしめたい衝動を抑えるのに、必死だった。