第108章 不安〜冨岡義勇【R】
義勇は小さく息を吐き出すと、瞳に涙を溜めて震えるゆきの元へと歩み寄り、その頭を優しく撫でた。
「俺の継子が…悪かった」
溢れ出そうな愛おしさに任せて本当は今すぐ強く抱きしめたかった。
だが、冷ややかな視線で自分たちをじっと見つめ続ける幸の気配に耐えきれず、義勇は名残惜しさを断ち切るように手を離し、ゆっくりと離れた。
「…帰るぞ」
少し怒りがこもった声で、義勇は幸に向かって言い放つ。
幸は感情の読めない瞳のままゆっくりと立ち上がると、開け放たれた襖の方へと歩を進めた。
すれ違いざま、義勇が改めてゆきへ視線を向けると、彼女はまだ身体が震え幸の行動に戸惑ったまま、小さく身体を震わせていた。
その姿を目にした瞬間、義勇の胸に締め付けられるような痛みが走る…。
「…先に行け。俺は少し、ゆきと話がある」
幸は微かに眉をひそめ、あからさまに不満げな表情を浮かべた。
しかし、義勇の纏う静かながらも圧倒的な柱の気迫に押され、それ以上は何も言わずに部屋を後にした…。
パタン、と静かに襖が閉められる。
足音が遠ざかったのを確認した義勇は、すぐさまゆきの側へとしゃがみ込んだ。
「大丈夫か」
気遣う声に、固まっていたゆきの瞳からぽろりと大粒の涙が零れ落ちる。
「さ、幸さん何だか様子がおかしくて…」
震える声で絞り出された言葉に、義勇は居ても立ってもいられなくなり、
「すまない、あいつの距離感が近くて怖かっただろう」
「び、びっくりしましたが、女同士ですし大丈夫です…」
「でも泣いてるじゃないか?」
「本当に、驚いたので勝手に涙が出てしまい…ごめんなさい…。幸さんには手当していただいたり色々お世話になったのに…。」
『女同士』
その言葉に義勇は引っ掛かりを覚える。
あいつは本当に女としての感情でゆきに接しているのか?
いや、その心は男なのではないのか…そう思わざるを得ないほど、幸の瞳は、確かに愛おしさを込めてゆきを見ていた。
「もし、あいつがまた一人で来ても部屋に入れるな、わかったな?」
義勇のゆきの肩を持つ手に自然と力がこもる…。
「わかりました。」