第108章 不安〜冨岡義勇【R】
意を決したように、ゆきは覆いかぶさる幸を押しのけて勢いよく身体を起こした。
「あ、ハハ…幸さん、ちょっと距離が近いですよ」
動揺を隠すように笑みを浮かべてみせるが、幸は表情一つ変えない。
それどころか、逃げようとしたゆきの両手首を、逃がさないように、力を込めてゆっくりと掴み取った。
「…ゆきさんは、師範の継子だったんですよね?」
「え…あ、はい」
唐突な問いかけに頷くと、幸はゆきを見つめたまま、静かに言葉を紡ぐ。
「足の手当をしている時に思ったんです。お二人のお姿…まるで、恋人同士のようでした」
「ち、違います! 私には無一郎くんがいます」
思いがけない言葉に顔が一気に熱くなり、必死に否定しようと焦る。
しかし、幸は慌てるゆきを逃がさぬよう、掴んだ手首を抱え込むようにしてさらに距離を詰めてきた。
「師範がゆきさんに惹かれてしまうお気持ち…私、すごくよく分かるんです」
「あ、あの…、さ、幸さん…!?」
囁くような声とともに、再び幸の顔が息がかかるほどの距離まで近づいてくる。
整った顔と影を帯びた瞳に見詰められ、身動きが取れない。
呼吸すら忘れて固まるゆきの頬を熱が支配していく…。
駄目だ…口づけされちゃう…
ぎゅっと目を瞑り、心臓の鼓動が耳元でうるさく跳ねたその瞬間。
バンッ!!
勢いよく襖が開け放たれた。
「…何をしている!!」
そこに立っていたのは、肩を大きく上下させ、荒い息を吐く義勇だった。
刺さるような鋭い視線が部屋の中へと注がれる。
涙目のゆきを見て義勇の体温は更に上がる。
「勝手にここへ行くなと言ったはずだが?何故来ている?」
幸は、正座しなおし義勇を見据えた。
「師範に言われた通り自主稽古を終えてからこちらに、参りました。午後からの師範の稽古にも間に合うように帰る予定でした。こちらに勝手に来たのもゆきさんの怪我が心配でしたので参りました。」
「勝手な行動を取るな!」
「疑問なのですが、何故師範同行でなければゆきさんの所に行ってはいけないのですか?」
義勇は、拳を握りながら口籠る…
幸のゆきを、見る目が気になって仕方ない…
そんな事が、言えるわけない…