第108章 不安〜冨岡義勇【R】
隠に案内され、部屋へと入ってきた幸。
その手には包帯や消毒液が収められた風呂敷が抱えられていた。
「足の具合はいかがですか?」
幸は穏やかに問いかけながら、ゆきの足首を優しく掴み、自身の膝の上へとそっとのせた。
「…まだ、少し疼きます」
「毎日しっかり消毒をすれば、すぐに歩けるようになりますよ」
幸は撫でるように足に触れ、柔らかな笑みを浮かべた。
その温かな手つきに少し恐縮しながらも、ゆきは口を開く。
「あの…無一郎く、あっ…霞柱様が…」
「ゆきさんの呼びやすい言い方で大丈夫ですよ」
「あ…無一郎くんが、足の治療は街のお医者様に頼んでくれているみたいなので…その…」
申し訳なさそうに切り出すゆきだったが、幸は言葉を遮ることなく、手際よく消毒を済ませていく。
「…そうですか。けれど、私はゆきさんが心配で…」
包帯を巻きながら、幸はどこか悲しげに呟いた。
伏せられた長い睫毛と整った美しい横顔に、ゆきは一瞬、息を呑んで見とれてしまう…。
包帯を巻き終え、幸がゆっくりと顔を上げた。
不意に視線が絡み合い、ハッとしたゆきは思わず目を逸らした。
幸はその微かな動揺を見逃さなかった…。
じわりと、さり気なく距離を詰めてくる。
「顔が赤い…何故ですか?」
伸ばされた幸の手が、ゆきの熱を持った頬へと触れる。
「私に照れているのですか?」
這い寄るように、じわじわと迫ってくる幸。
幸さんは女性なのに…私、どうしてこんなにドキドキしているんだろう…?
混乱と胸騒ぎで動惑するゆきに、幸はさらに顔を近づけた。
「どうして、黙っているのですか?」
問いかけに押されるようにして体勢を崩したゆきは、そのまま畳の上へと倒れ込んでしまった。
逃げ場を失ったゆきの上へと覆いかぶさるように、幸は静かにその身を組み敷いた…。
「あ、あの…そうだ!稽古は?今日はお休みですか?」
気まずい空気に、ゆきが話をすり替えた。
「師範が午前は産屋敷邸に行かれているので、午後からです。」
ゆきは、幸と目を合わさず横を見ていた。
目は泳ぎ困っているのが手に取るようにわかった。