第108章 不安〜冨岡義勇【R】
出発の刻が訪れた。
足の傷のせいで自力で立てないゆきは、隠に抱えられながら屋敷の門前へと見送りに向かった。
「足の怪我、早く良くなるといいね…行ってくるよ」
無一郎は切なげな瞳でゆきを見つめ、別れを惜しむように呟いた。
「無一郎くん! 気をつけてね」
ゆきが声をかけると、無一郎はふっと柔らかい笑顔を浮かべ、手を振りながら歩き出す。
その時だった。無一郎の後ろを歩いていた美月が、ふと振り返ったのは…
…え?
美月はゆきと視線を合わせると、声を出さずにゆっくりと口元を動かした。
『わ・た・し・の・も・の』
確かにそう読み取れる唇の動き。
そして美月は、何事もなかったかのように無一郎のすぐ隣へとぴったり寄り添う。
隣を歩く無一郎は、美月のその挑発的な態度にも、向けられた自分への執着にも全く気づいていない。
遠ざかっていく二人の背中を見つめながら、ゆきの胸は、ただ重い不安でいっぱいになった。
翌日ー
無一郎のいなくなった屋敷は、驚くほど静まり返っていた。
ゆきは縁側にぽつんと座り、遠くの空をぼんやりと眺めていた。
隊士ではなくなった自分には、やるべき仕事も何もない。
無一郎くん、今頃どこに居るのかな?目的地には着いたのかな?鬼と遭遇して戦ったのかな…
過酷な任務に身を投じる彼の身を案じると居ても立ってもいられないが、今の自分には祈る以外に何もできない…。
自分の無力さに苛まれながら縁側に佇んでいると、慌ただしい足音が響いた。
「あの、ゆき様…! 水柱様の継子の方がいらっしゃっているのですが…」
隠が困惑した表情をゆきに向けている。
「え? なんで…?」
「どうやら、ゆき様の足の怪我の消毒に来られたそうで…」
義勇の継子には頼まなくていいと無一郎から言われていた矢先のこと…思わぬ訪問者の名に、ゆきは小さな胸騒ぎを覚えた。
「幸さんお一人ですか?」
「はい。水柱様はいらっしゃりません。」
ゆきは、少し考えた後…
「入ってもらってください。」
幸を招き入れた。義勇は、居ないから大丈夫だと思いの判断だった…。