第107章 足の怪我〜時透無一郎【R強強】冨岡義勇【R微】
翌朝、無一郎は美月と約束していた山での稽古へ行くべきか、深く頭を悩ませていた。
「ねぇ…ゆき。脚のこともあるし、今日も山じゃなくて道場での稽古にした方がいいよね?」
隣に正座した無一郎が、気まずそうに尋ねてくる。
昨夜、義勇の影に怯えて縋りついてきた姿とは一転、その瞳には罪悪感が揺れていた。
「大丈夫だよ。何かあっても、隠の人に手伝ってもらうから」
「でも…」
「美月さんに、稽古をつけてあげたいんでしょ?」
「そ、そんな事はないんだけど…その、約束はしちゃったから…」
「朝食の時にでも、山へ稽古に行きたいって言われたんでしょ?」
バツの悪そうな顔をして視線を落とす無一郎。
「…拗ねられちゃったんだ」
「無一郎くんは、結局…あの簪の件、どう解釈したの?」
静かな問いに無一郎の身体が固まる。
美月が「母の形見」と偽って罠を仕掛け、ゆきの部屋から出てきた簪。
当時の無一郎は美月を信じ込み、無実を訴えるゆきの頬を平手打ちしたのだ。
「それは…」
言葉を詰まらせた無一郎は、責め立てるような沈黙に耐えかねたように視線を逸らした。
「…ごめん、その話はまた今度にしよう」
核心から逃げるようにうやむやにする無一郎。
その時、障子の外から「無一郎様、稽古のお時間です!」と明るい美月の声が響いた。
無一郎が返事に躊躇していると、美月は遠慮もなく部屋の襖を開け、屈託のない笑顔で無一郎の腕に抱きついてきた。
「山での稽古、楽しみにしてたんです。 さあ、行きましょう?」
「あ…うん…」
戸惑いながらも強引な勢いに押し切られ、無一郎は立ち上がってしまう。
「行ってきて無一郎くん」
ゆきが、無一郎にそう言った。
去り際、チラリと振り返った無一郎の瞳には申し訳なさが見えたが、美月に引かれるまま部屋を出て行った。
無一郎くんが、わからない…昨日のあれは何だったの?
義勇さんに、私が奪われそうで怖いって言ってたのに…
美月に、気持ち揺れないでって言ったのに…
ゆきは、無一郎が先程まで折っていた折り紙を手に取る。
「紙飛行機かぁ…」
そう呟いて天井に、向かって飛ばした。