第107章 足の怪我〜時透無一郎【R強強】冨岡義勇【R微】
「あの…無一郎くん?」
戸惑うゆきの声に、無一郎は胸が押し潰されそうなほど悲しい笑顔を向けた。
「僕が気づかない理由なんて、ないだろう? 君の瞳の奥にも、ふとした仕草の中にも、いつだって冨岡さんの影がチラついていることくらい…」
無一郎は、ゆきの顔を見つめる。
「君は僕の婚約者になってくれて、将来一緒にいようとしてくれている。鬼殺隊だって、冨岡さんの継子だって…本当は未練があるはずなのに僕のために辞めて、必死に僕の言葉に従おうとしてくれている」
瞳に涙を滲ませながら、無一郎は震える声で核心を突いた。
「でも、それって本当に『僕』を好きなの? 心の底から、僕だけを愛してくれているの?僕が君を鬼から救った恩があるからじゃないの?」
ゆきは胸を抉られるような痛みに耐えながら、まっすぐに無一郎を見つめ返した。
自分の中にいる義勇の存在を誤魔化すのではなく、今向き合うべき相手、無一郎へと言葉を紡ぐ。
「…好きだよ。私、無一郎くんと一緒に生きるって決めたんだから」
その言葉と同時に、無一郎は堪えきれなくなったようにゆきを強く抱きしめた。
「冨岡さんは、まだ君を諦めてない。そして君の心にも、まだ彼が生きている…それが分かっているから、僕から君が、奪われてしまいそうでたまらなく怖いんだ」
無一郎の嫉妬と痛みが痛いほど伝わり、ゆきの胸がぎゅっと締め付けられる。
ゆきは背中に手を回した。
「無一郎くん…そう思うなら、私を離さないようにしっかり捕まえておいてよ。…私を疑って、美月さんに揺れないで。」
ゆきの言葉にハッとした無一郎は、己の愚かさを恥じるように目を見開いた。
そして、ゆきの心ごとすべてを塗り替えてしまいたいと願うように、さらに力強くその身体を腕の中へ抱きしめた。
「君の中から冨岡さんを消せるように僕頑張る。君が僕だけを思ってくれるように…」
無一郎は、そう言うとゆきの首筋に唇を寄せ力いっぱい抱きしめた。
君は蜂蜜のように、甘い…その甘さに誰もが吸い寄せられる。
一度味わったら忘れられない甘さなんだ…。