第107章 足の怪我〜時透無一郎【R強強】冨岡義勇【R微】
屋敷に戻った義勇は、静まり返る道場の中、目の前に幸を正座させた。
少しの沈黙の後、義勇は静かに口を開く。
「…感謝している。ゆきの手当をしてくれたこと、医術の心得があったことは確かに助かった」
不器用ながらも素直な感謝を口にする義勇に対し、幸は感情を読ませない瞳でじっと見つめ返した。
そして、幸は静かに切り出す。
「…では、また足の経過を診るため、霞柱様の屋敷へ通ってもよろしいでしょうか?」
幸の言葉の裏にある企みを感じ取りつつも、義勇は少しの思考の間の後、静かに頷いた。
「ああ。…だがその代わり、向かう時は俺も必ず同行する」
義勇の言葉に、幸は不満げに頷く。
一方、時透の屋敷では、熱もようやく引き始めたゆきが少しずつ意識を取り戻していた。
傍らに寄り添う無一郎は、彼女を起こさぬよう、静かに折り紙を折りながら時間を過ごしていた。
紙の擦れる音が小さく響く部屋で、ゆきが薄っすらと目を開け、消え入りそうな声で呟く。
「あの…せっかくの稽古だったのに、私のせいで出来なくてごめんなさい…」
無一郎は折っていた手を止め、優しく視線を落とした。
「そんなこと気にしなくていいよ。稽古ならまた別の日に山へ行けばいいんだから」
「でも…」
申し訳なさそうに身を縮めるゆきに対し、無一郎は胸の奥に抱えていた後悔を吐き出すように首を振った。
「元はと言えば、僕のせいなんだ。君が怪我をしたのも…簪の話をちゃんと聞こうとしなかったから、僕たちの気持ちはどんどんすれ違ってしまった」
無一郎の言葉を聞き、ゆきは何かを伝えるべく、痛む身体を押してゆっくりと起き上がろうとする。
無一郎は咄嗟に手を伸ばし、倒れそうになるゆきの身体を優しく支えた。
至近距離で見つめ合う中、ゆきは震える声で、真っ直ぐに無一郎の目を見つめた。
「あの…私、本当に美月の簪なんて隠してない。見たことすらないの。ずっと言ってたのに無一郎くんが信じてくれなかった。」
無一郎は、その言葉を聞き胸を締め付けられる。
「ごめんね。君には心の何処かにいつも冨岡さんがいる。だからどうしても、美月の事を信じてしまっていた。だけど…君が冨岡さんを忘れきれてない事なんて分かりきっていたはずなのに…駄目だなぁ…僕は…」