第107章 足の怪我〜時透無一郎【R強強】冨岡義勇【R微】
襖が静かに開き、部屋の中から幸が姿を現した。
中の様子を気遣うように、そっと襖を閉める動きには一切の無駄がない。
「今、ようやく熱が落ち着いてきたところです。少しの刺激も与えたくありませんので、今日はもう、誰も部屋に入らないでいただけますか」
穏やかでありながらも毅然とした幸の言葉に、廊下で待ちわびていた無一郎がすぐさま食いついた。
「…心配だから僕は入るよ。様子を見るくらい、いいだろう」
無一郎は幸の横を通り抜けようと一歩踏み出すが、幸は微動だにせず、その進行を遮った。
整った顔立ちにどこか掴みどころのない微笑みを浮かべている。
「何のマネ? どいてよ」
不快感を隠そうともせず苛立ちを募らせる無一郎に対し、幸は困ったように首を横に振った。
「駄目です。適切な処置を施し、やっと心地よい眠りについたばかりなのですから。どうか安静にさせてあげてください」
ピリついた空気が流れる二人の間に、それまでじっと様子を見守っていた美月がそっと割り込んだ。
無一郎の袖を優しく引き、宥めるように語りかける。
「無一郎様、落ち着いてください。今日はこれから、山へ稽古に行く予定だったではありませんか? 幸さんは医術の心得もおありのようですし、ここは専門知識のある方にお任せして、私たちは稽古に向かいましょう」
美月に諭され、無一郎は納得のいかない表情で彼女の顔を見つめた。
自分が部屋に入ったところで傷を癒やせるわけではないのだと、感情を抑え込む。
不満げに小さく息を吐き出した無一郎は、幸から視線を外し、少し離れた場所で静観していた義勇へと顔を向けた。
「冨岡さん、あなたの継子にゆきの看病頼んでもいいですか?」
無一郎の問いかけは、静まり返った廊下にどこか重々しく響いた。
義勇は、どこか幸に違和感を感じていたのでゆきと二人きりにしたくなかった。
「いや、俺達は帰る。だから時透お前がゆきの看病をしろ」
予想もしなかった義勇の言葉に無一郎は、驚く。
「幸帰るぞ!お前がゆきの側にいるより時透が居る方がゆきは、安心する。」
「し、しかし師範…」
「いいから、帰るぞ」
義勇は、幸にそう告げると歩いて行ってしまった。
幸は、何とも言えない表情で、無一郎に一礼すると拳を握りながら義勇を追いかけて行った。
